双極性障害とは活発に行動できる「躁状態」と、気分が落ち込み何事にも興味がわかない「うつ状態」の両方が不定期に現れる疾患のことです。以前は躁うつ病とも呼ばれていました。
双極性障害の方の中には、躁状態とうつ状態の繰り返すことで日常生活に支障が出てしまい、
「病気のせいで仕事ができない……。」
「仕事でついやりすぎてしまった……。」
「双極性障害がある私でも続けられる仕事ってあるのかな……。」
と悩んでいる方もいらっしゃると思います。
しかし、きちんと病気を理解して受けとめ、有効な予防・対策ができていれば、仕事について何かを諦めなければならないということはほとんどありません。
安定して働くためには、まず双極性障害の特性や仕事への向き不向きを知ることが重要です。その上で、各種支援を活用して自分の適職を見つけましょう。
- 双極性障害の特性や、仕事で困ること
- 双極性障害の方におすすめの職業
- 双極性障害の方が仕事を続けるコツ
- 双極性障害の方が利用できる支援制度
について解説していきます。
双極性障害の特性とは
双極性障害とは、気分が高揚して活動的になる 「躁状態」と、気分が落ち込み活動がしづらくなる 「うつ状態」という二つの極端な状態を繰り返す疾患です。日本における患者数は1,000人に4~7人ほどと言われています。
気分の波自体は誰にでもあることですが、双極性障害では躁状態とうつ状態の波(振れ幅)が大きく、日常生活や社会生活において支障が起こりうるレベルとなります。
躁状態・うつ状態では、それぞれ以下のような症状がみられます。
躁状態のサイン
- 寝なくても元気に活動を続けられる
- やたらと話し続け、人の意見に耳を貸さない
- 次々にアイデアは出てくるが、最後までやり遂げることができない
- なぜか根拠のない自信に満ちあふれている
- 買い物やギャンブルなどに莫大な金額をつぎ込んでしまう
うつ状態のサイン
- 表情が暗く、元気がない
- 反応が遅く、落ち着きがない
- 食欲がなく、飲酒量が増える
- 眠れなくなる、あるいは過度に寝てしまう
- 体がだるく、疲れやすい
ほかにも、症状が切り替わる「躁転・うつ転」のタイミングで躁状態とうつ状態の症状が同時に出現することがあります。この「混合期」は自殺リスクが特に高いため、注意が必要です。
これらの症状は、薬物治療などを通してある程度緩和させることができます。しかし、再発しやすい疾患のため、症状を自覚したら、必ず適切な治療を継続して受けていくことが大切です。
また、双極性障害はⅠ型とⅡ型の2種類に分類されます。それぞれの特徴をみていきましょう。
双極性障害Ⅰ型
双極性障害Ⅰ型は、1週間は続く激しい躁状態とうつ状態を繰り返します。その結果、「問題行動を引き起こして失職する」「家庭環境を悪化させ、離婚に至る」など、社会生活の基盤を損なうほどの影響をおよぼします。
あまりにも激しい躁状態が現れる場合は、入院が必要となります。
双極性障害Ⅱ型
双極性障害Ⅱ型は、I型より軽い躁状態である「軽躁状態」とうつ状態を繰り返します。 軽躁状態は少なくとも4日間、うつ状態は2週間以上持続し、それぞれの期間のほぼ終日、症状が現れます。
Ⅰ型と比較して慢性化しやすく、重症になる傾向があります。また、衝動性が高いことも特徴です。
双極性障害による仕事での困りごと
上記の症状は仕事においても悪影響をおよぼすことがあり、双極性障害を持つ方の多くを悩ませています。
双極性障害によって起こる可能性がある仕事での困りごととして、以下のことが挙げられます。
躁状態の場合
- 思いついたアイデアを次々に手掛けるものの、途中で続かなくなってしまう
- 周りの人に対して尊大な態度を取る
- 過剰にイライラしてしまう
- 仕事中にも関わらず、しきりに人に話しかける
うつ状態の場合
- 出勤できないほど気分が落ち込む
- 仕事が手につかない
- 躁状態の時に自身が行った行動を激しく後悔する
- 自責の念に駆られる
双極性障害の方に向いている仕事
ここまで紹介してきた症状によって「仕事ができない」と悩んでいる方はまず、自分の特性に合った仕事を知ることが重要です。
双極性障害の方に向いている可能性が高い仕事について、詳しくみていきましょう。
勤務時間や業務量に大きな変化が無い仕事
双極性障害の方が安定して働くためには、生活リズムを保つことが大切です。生活リズムを整えるためには、勤務時間や業務量に大きな変化がない職場を選ぶといいでしょう。
起床や就寝の時間を一定にするなど、基本的な毎日のリズムを整えることで気分の波も起こりづらくなります。
勤務時間や業務量に大きな変化が無い仕事の例
- 一般事務職
- 工場での軽作業
- 倉庫管理
- スーパーでの軽作業
- 清掃業
など
自分のペースを保って働ける仕事
どの職場でもある程度の業務量の変化はあるものです。相手次第で業務量が大きく変わる接客業や営業職などでは、どうしても心身への負担は避けられません。
しかし、業務量が増えても「自分一人で業務を担当でき、ある程度仕事の裁量を自分でコントロールできる」といった場合においては、心理的な負担を少なくすることができます。
自分のペースで働きやすい仕事の例
- <liフリーランス
- Webデザイナー
- DTPデザイナー
- Webライター・プログラマー
- 研究職
など
柔軟な働き方ができる仕事
自分に合った柔軟な働き方ができる職場を選ぶことも大切なポイントです。
例えば、通勤ラッシュの電車でストレスを受けてしまう場合はフレックスタイムを利用する、あるいは在宅勤務として通勤自体を不要にできるのであれば心身の負担も軽減できます。
柔軟な働き方がしやすい仕事の例
- 在宅ワーク
- フリーランス
- Webデザイナー
- ライター
- プログラマー
人と関わる機会が少ない仕事
一般的に人との交渉など、人と関わる機会が少ない業務は、人間関係によるストレスや躁状態でのトラブルのリスクを減らすことができます。
人と関わる機会が少ない仕事の例
- 接客や電話対応を伴わない事務職
- 清掃業
- 倉庫管理
- 工場等の軽作業
- 在宅ワーク
双極性障害の方に向いていない可能性がある仕事
一方で以下のような特徴がある仕事は、双極性障害の方に不向きな可能性があります。
- 日常的な接客・対人ストレスがある
- 残業や夜勤が多い
- 勤務時間や業務量の変化が大きい
- ノルマや締め切りが厳しい
具体的には、次の職種が挙げられます。
- 営業職
- 接客業
- 看護師
- 工場などのシフト勤務
自分に合っていない環境で無理に働き続けると、症状が悪化する可能性があるため、注意しましょう。
双極性障害の方が仕事を続けるコツ
適職を見つけて就職することができても、それがゴールではありません。双極性障害の方が働き続けるには、症状に合った工夫が必要となるでしょう。
この項目では、双極性障害の方が仕事を続けるためのコツを紹介します。
医師や支援者の意見にきちんと耳を傾ける
躁転しそうな予兆のあるときや、うつ状態にあるときなど、早い段階で自分の現状を知ってもらい、周りから意見をもらいましょう。
また、自己判断で薬の服用を中断したり通院をやめたりすると、症状が悪化する場合があるのでやめましょう。
薬が合わない場合など、薬の服用をやめたい、通院をしたくない時は、担当医や処方箋をお願いしている薬剤師などの専門家に相談しましょう。
障がいと向き合う
双極性障害は再発しやすく、長期の治療が必要な病気だと言われています。
再発した際には以前より深く落ち込んだり、自暴自棄になってしまうこともありますね。
躁うつの激しい波を作り出さないためにも、自身の症状を否定せず、「今の自分は躁状態なんだ。」「今はうつ状態なんだなぁ。」など、ただ現在の状態・疾患をあるがままに捉え、ゆっくりと向き合い、受け入れることができるよう、長期的なスパンで付き合っていく姿勢が大切です。
体内時計を整える
双極性障害の方は、活動的な状態(躁)とそうでない状態(うつ)が不定期に起こるため、体内時計が乱れやすい傾向にあります。
体内時計が乱れることにより睡眠障害を引き起こしたり、日中の抑うつ感が増したりと、症状を悪化させるリスクが高まります。
生活の基本となる「睡眠」「食事」「活動」の3つのリズムを保つことが大切です。
できるだけ残業は避ける
双極性障害の方が躁転しやすいタイミングとして、失敗できない仕事に取り組んでいる際や、過剰に仕事に打ち込んでいる状況が挙げられます。
気分の波を減らすために、勤務時間や仕事内容、仕事量をできるだけ一定にすることが理想です。
休暇取得日を月初めに決めておく
働きすぎを抑制するため、休暇取得日を月初めに決めておくことも効果的です。必要以上に無理をしないため、月初めにあらかじめ休日を決めておくとよいでしょう。
双極性障害の方が利用できる支援制度
最後に、双極性障害の方が利用できる就労支援制度について解説します。
これらの支援制度を利用すると、自分に合った仕事探しや就労後に職場に定着するための支援を受けることができます。
これらを効果的に活用し、就労に役立てていきましょう。
就労移行支援・就労継続支援
就労移行支援
就労移行支援は、障がい者が一定期間通所して対人スキルや就労に役立つスキルを学び、指導や実習を受けることができる支援制度です。
就労移行支援のネットワークを通して仕事の紹介を受けられる場合もあります。また、就労後の定着支援も行っています。
就労継続支援
就労継続支援では、実際に就労しながら企業に就職するために必要な知識・スキルを身につけていきます。
就労移行支援のように、直接仕事を紹介されるわけではありませんが、収入を得ることはできます。
雇用契約を結んで賃金をもらい働く「A型」と、雇用契約は結ばずやった仕事の分だけ工賃をもらう「B型」があります。
就労移行支援と就労継続支援については、以下の記事などで詳しく解説しています。
ハローワーク
ハローワークには障がいがある方向けの窓口があり、専門知識のある支援員もいます。職業相談はもちろん、履歴書のアドバイスなどの支援も受けられます。
なお、障がい者雇用または特例子会社への就職を希望してハローワークを利用する場合は、相談や応募の段階で障害者手帳、もしくは主治医の診断書・意見書の提出を求められます。
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは各都道府県に1か所ずつ置かれ、就労を考えている障がい者の方を対象とした職業評価や職業指導、定着支援などを行う施設です。
ハローワークとの連携による職業リハビリテーションも実施しています。
地域障害者職業センターについては、以下の記事で詳しく解説しています。
⇒ 地域障害者職業センターとは?役割、他の機関との違いを解説
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
各都道府県に数か所ずつ置かれ、就業と生活の両面において一体的な支援を行っている施設です。
就業・生活のそれぞれで専任の支援担当者が付き、さまざまなサポートを受けられます。
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)について、以下の記事で解説しています。
⇒ 「なかぽつ」こと「障害者就業・生活支援センター」とは?
障がい者向け求人サイト・転職エージェント
障がい者向け求人専門のサイトを利用する方法や障がい者専門の転職エージェントを利用する方法もあります。
どちらのサービスも基本的に無料で利用することができます。
まとめ|双極性障害の方が働き続けるには
- 双極性障害は活動的な「躁状態」と活動がしづらくなる「うつ状態」の極端な状態を繰り返す疾患で、気分の振れ幅が大きいために、生活に支障が出る。
- 向いている仕事は、「勤務時間や業務量に大きな変化が起きない仕事」「自分のペースを保って働ける仕事」「柔軟な働き方ができる仕事」「人と関わる機会が少ない仕事」など。自分の特性に合った仕事を選ぼう。
- 仕事を続けていくためのコツは、「医師・支援者の意見に耳を傾ける」「障がいと向き合う」「体内時計を整える」など。
- 障がいがある方に対する就労支援制度として、就労移行支援や就労継続支援、ハローワーク内の障がい者向け窓口、なかぽつなど、さまざまなものがある。
双極性障害は気分が高揚する「躁状態」と気分の落ち込みがある「うつ状態」が繰り返され、日常生活や仕事に支障が生じることがある疾患です。
仕事をする上で気分の波により困りごとが生じることもありますが、治療やセルフケア、自分に合った職場を見つけていくことで、安定して働き続けていくことも可能です。
自身だけで進めることが難しい場合は、各種支援制度も利用して自分に合った働きやすい職場を探してみましょう。