障がいのある方にとって、いきなり社会に出て働き始めるのはとても勇気がいりますよね。
「自分に合った方法で社会に出る準備をしたい」
「自分の体調とうまく付き合いながら働きたい」
そう考えている方は職業リハビリテーション(通称:職リハ)を利用してみてはいかがでしょうか?
職業リハビリテーションでは、社会に出て働く前にスキルを身につけるための支援や就職活動のサポートが受けられます。
- 職業リハビリテーションとは何か
- 各施設で受けられる支援内容
について解説していきます。
職業リハビリテーション(通称:職リハ)とは?
職業リハビリテーションとは、通称「職リハ」とも呼ばれており、障がいのある方が社会に出るために必要なスキルを身につけられるようサポートする制度です。
国際労働機関による1983年の職業リハビリテーション及び雇用(障害者)条約(第159号)第1条2では、
「職業リハビリテーションの目的が、障害者が適当な職業に就き、これを継続し及びその職業において向上することを可能にし、それにより障害者の社会における統合又は再統合の促進を図ることにあると認める。」
としています。
障がいのある方に対し、専門の機関が連帯し、職業指導、職業訓練、職業紹介などの支援を行います。
職リハ(職業リハビリテーション)は誰が利用できるの?
サポートを受ける施設によって対象者は異なりますが、職業リハビリテーションを受けられる方は以下の通りです。
- 身体障害者
- 重度身体障害者
- 知的障害者
- 重度知的障害者
- 発達障害を含む精神障害者
- その他心身の機能障害者(障害者手帳を持っていない方含む)
職業リハビリテーションではどんな支援が受けられる?
職業リハビリテーションでは主に「職業相談・職業評価」「職業訓練」「職業紹介」の3つの支援を受けることができます。
職業相談・職業評価
職業リハビリテーションを利用する前に、各機関が的確に支援をするため、計画表を作成する際に必要な評価を行います。
基礎学力、健康状態、本人からの要望などを確認後、その機関への入所が適切か判断します。
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- 地域障害者職業センター
- ハローワーク
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
職業訓練
職業評価をもとに、自分の特性に合った訓練を行います。
一般的には自分の体調を管理する方法を習得することから始まります。
その後、徐々に仕事をする上で必要になるスキルを習得するための訓練に移行していきます。
具体的にはビジネスマナー、パソコンスキルなどの実務的な訓練から、電子機器などのメカトロ系、建築系などの専門的な訓練を行うこともあります。
受けられる訓練のコースについては、後の「3-5国立職業リハビリテーションセンター」の項目で詳しくご紹介します。
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- 国立職業リハビリテーションセンター
- 就労移行支援事業所
- 職業能力開発校
職業紹介
職業訓練を行い自分の特性を理解し、働く上で必要なスキルも身につけることが出来たら、自分に合った仕事を紹介してもらえるようになります。
仕事探しの相談だけでなく、面接練習や企業へ提出する必要書類の添削などもしてもらえます。
採用試験や面接を受けた後、どのような配慮が必要か、配慮に対応できるかなどを確認するために、「職場実習」や「トライアル雇用」を行う場合もあります。
他にも、ジョブコーチ支援という制度があります。
ジョブコーチ支援制度とは、障害者職業センターに在籍しているジョブコーチが、障がいのある方が安定して働き続けられるよう就職活動を支援したり、職場に同行して会社側へ働きやすい環境を作るよう交渉したりしてもらえる制度です。
このように、就職後にも引き続き支援を受けることができます。
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- 主にハローワーク
ハローワークは地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所とも連携しているので、求人情報を探すことができます。
職業リハビリテーションに関わる施設について
これまで支援内容について紹介してきましたが、施設により受けられる内容ははさまざまです。
各施設の利用方法や利用料金など詳しくお伝えしていきます。
公共職業安定所(ハローワーク)
公共職業安定所では、求職者登録完了後に専門職員や職業相談員が一人ひとりの障がい・特性に合わせた職業相談・紹介、職場定着指導支援を実施します。
相談員から仕事を紹介してもらうことはもちろん、自分で求人を探すこともできます。
また、応募書類や面接の相談も可能です。
職業紹介から就職後の支援まで一貫して利用が可能です。
利用方法
総合窓口に出向き、求職者登録後に利用可能となります。
事前予約は不要です。
一般と障がい者向けの相談窓口が別になっていますが、分からなければ総合窓口に行けば案内してもらえます。
基本的には持ち物は不要ですが、障害者手帳や主治医の診断書を持っている場合は持参すると良いでしょう。
求職者登録の際に自分の特性や障がいの話をしておくと情報が記録されるため、その後の職業相談をスムーズに利用できるようになります。
利用料金
無料
地域障害者職業センター
地域障害者職業センターでは、職業評価、職業指導、職業準備訓練、ジョブコーチ支援など専門的な職業リハビリテーションを受けられます。
全国の都道府県に設置されており、公共職業安定所(ハローワーク)や企業、医療・福祉施設などと連携し、一人ひとりのニーズに沿った支援を行っています。
利用期間は基本的に3か月間です。
利用方法
最寄りの地域障害者職業センターへ事前に連絡し、相談する日時を予約します。
直接出向いたり、説明会に参加するのが難しい場合は電話で具体的な希望を伝えることもできます。
申し込みの際は、障害者手帳や主治医の診断書があれば持っていきましょう。
また、面談で障がいの状況や職歴、生活歴、支援してほしいことなどを聞かれるため、事前に準備しておくと良いでしょう。
利用料金
無料
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)
障害者就業・生活支援センターでは、就労面と生活面での支援を地域の関係機関と連携して行っています。
就労面では、職業準備訓練や職場実習の斡旋、就職後のアフターフォローをしてもらえます。
生活面では、安定して仕事を続けられるよう、生活支援担当者から自己管理や健康維持に対するアドバイスを受けられます。
利用方法
基本的には電話で面談予約を取ります。
面談では障がいの特性やこれまでの職務経歴などのヒアリングが行われ、具体的な支援内容について話し合います。継続して利用する場合はセンターに登録をします。
来所が困難な場合は、担当者が自宅へ出向いてもらえる場合もあるので最寄りのセンターへ相談してみましょう。
利用料金
無料
就労移行支援事業所
就労移行支援事業所では、職業相談から職業訓練、職業紹介まで、職リハで受けられるサービスを一貫して提供しています。
一人ひとり個別の支援計画が作成され、職業訓練や就職活動の支援の他、就職後も職場定着サポートを受けることができます。
利用方法
利用申し込み手続きはお住まいの市区町村にある窓口で行いましょう。
事業所の比較・検討を行い、利用先を決めたら、各市区町村にある障がい福祉課などの福祉を担当する部署に障害福祉サービス受給者証を申請します。
その後、事業所と利用契約を結び、就労移行支援の利用が可能になります。
利用料金
多くの方が無料で利用していますが、前年度の世帯収入に応じて自己負担が発生する場合があります。
⇒障害者手帳なしでもOK!就労移行支援事業所の3つの利用条件とは
⇒就労移行支援事業所の利用料は無料?交通費や昼食代も併せて解説
国立職業リハビリテーションセンター
「2-2.職業訓練」の項目で軽く触れた国立職業リハビリテーションセンターは、埼玉県所沢市に設置されている国の機関で、職業リハビリテーションで受けられる支援を一括で行っています。同等の職業リハビリテーション施設として、岡山県にある吉備高原職業リハビリテーションセンターがあります(令和5年6月時点)。
利用対象は高等学校卒業者、もしくはそれと同等以上の学力を有する方で、週5日通所し、1日6時間程度の職業訓練を1年間継続して受講できる方となっています。
個別の訓練カリキュラムをもとに、一人ひとりに合わせた訓練や職場実習を行う他、専任の看護師による健康相談・指導も受けられます。
利用方法
年間10回の入所機会を設けられており、ハローワークから手続きができます。
まずは、管轄のハローワークへ行き、職業訓練の利用について相談しましょう。
宿舎の利用を検討している場合は国立障害者リハビリテーションセンター総合相談課へ連絡し、利用許可を得ます。
その後、ハローワークへ入所申請書を提出し、職業評価を受け、入所の許可が下り次第入所手続きを行います。
訓練の種類はさまざまで、11科、17コースが設けられています。
内容は下記の通りです。
訓練系 | 訓練科 | 訓練コース |
---|---|---|
メカトロ系 | 機械製図科 | 機械CADコース |
電子機器科 | 電子技術・CADコース | |
テクニカルオペレーション科 | FAシステムコース | |
組立・検査コース | ||
建築系 | 建築設計科 | 建築CADコース |
情報系 | OAシステム科 | ソフトウエア開発コース |
システム活用コース | ||
視覚障害者情報アクセスコース | ||
DTP・Web技術科 | DTPコース | |
Webコース | ||
ビジネス系 | 経理事務科 | 会計ビジネスコース |
OA事務科 | OAビジネスコース | |
オフィスワーク科 | オフィスワークコース | |
物流系 | 物流・資材管理科 | 物流・資材管理コース |
職域開発系 | アシスタントワーク科 | オフィスアシスタントコース |
販売・物流ワークコース | ||
サービスワークコース |
参照:職業につくための訓練|国立職業リハビリテーションセンター
利用料金
受講料は無料で、実習用の器工具や教材は貸してもらえます。
ただし、訓練を受ける科によっては参考書や作業服などが必要になるので、年間5,000~20,000円程度の自己負担があります。
障害者職業能力開発校
障害者職業能力開発校では仕事をする上で必要な知識や技術を習得するための職業訓練が受けられます。
図面の読み方や機械の操作方法を学ぶコース、メールの仕分けなどの事務作業を学ぶコースなど、各校によって設置されているコースはさまざまです。
利用対象は18歳以上、もしくは中学卒業以上です。年齢や障がい種別によって受けられるコースは異なります。
利用できる期間は1年間としているところが多いです。コースによっては、1~3か月、6か月、2年間の場合もあります。
訓練終了後は働く場所を紹介してもらえます。また、就職後に職場であった困り事を相談をすることもできます。
利用方法
ハローワークで入校の申し込みを受け付けています。
「入校申込書」もしくは「入校願書」という応募書類をハローワークへ提出し、審査を通過すれば利用開始となります。
申し込みの際は、
- 入校申込書
- 診断書
- 障害者手帳の写し
- 調査書
(中学・高校・特別支援学校を新しく卒業してから応募する方は、必要になる可能性があります。)
を持参しましょう。
利用料金
入校料、授業料は無料です。
その他、教科書代や資格試験代は実費負担になります。
全国の障害者職業能力開発校一覧|独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構
⇒障害者職業能力開発校とは?職業訓練の「コースの種類」と「手当支給の対象者」について
まとめ|職業リハビリテーション(通称:職リハ)とは
- 職業リハビリテーションとは、障がいのある方が社会に出るために、必要なスキルを身につけるサポートを受けられる制度。
- 支援を受ける施設によって幅は異なるが、基本的に障がいのある方が利用対象。障害者手帳が無くても利用できる場合がある。
- 受けられる支援としては、職業相談・職業評価や職業訓練、職業紹介がある。
- 職業リハビリテーションに関わる施設としては、ハローワークや地域障害者職業センター、就労移行支援事業所、職業能力開発校などがあり、それぞれ受けられる支援が異なるため、必要に応じて選択する。
いかがでしたか?
職業リハビリテーションでは基本的に無料で一人ひとりに合ったサポートを受けることができます。
各施設で受けられる支援は多岐に渡りますし、自分に合う方法で綿密なサポートを受けられたら安心ですね。
障がいの状態や体調をもとに、どのような職業リハビリテーションを進めていくか、医師や家族と相談しながら決めていくといいでしょう。