うつ病など、精神的な不調を患っているがある程度回復したと感じている方の中には、
「回復してきたので職場復帰に向けて動き出したい…」
「うつ病からは回復しつつあるけど、いきなり職場に戻って働くのは不安…」
「復職したいが焦っている…」
という方もいらっしゃるでしょう。
- リワークプログラムとは何か
- リワーク支援の種類
- リワーク支援を利用するメリット・デメリット
- リワークプログラムの内容
などを解説します。
職場復帰を目指す休職者の方だけでなく、周囲の「リワーク支援なんて意味ないんじゃない?」と考えている方にも読んでいただきたいです。
うつ病の方が利用できる「リワーク」とは何か
そもそも「リワーク」とは、「return to work」の略称で、職場復帰(復職)を指します。
うつ病や気分障害など、精神的な不調によって休職した方に対して、職場復帰へのリハビリテーションとして行われているのが「リワークプログラム」です。復職支援プログラムや職場復帰支援プログラム、リワーク支援プログラムなどと呼ばれることもあります。
医療機関や公的機関、その他民間の事業所で行われています。
ストレスコントロールなどのプログラムを通して復職後も働き続けるスキルを身につけたり、症状を回復・安定させ基本的な生活リズムを整えたり、再発を防止するためにセルフケア能力向上を目的とするプログラムを行ったり、と段階的に体と心を慣らしていきます。
職場復帰には慎重なリハビリが必要
うつ病など、メンタルの不調によって長期的に休むことを余儀なくされている方の場合、症状がある程度安定してきても、勤務への根強い不安が残るために、本格的な職場復帰が難しい場合があります。
このようなケースが増えているため、正式に職場復帰を行う前に「慣らし勤務(リハビリ勤務、試し勤務とも)期間」を導入する企業も増えつつあります。
しかし、このような期間を設けても本人が復帰を焦ってしまうなど、本人や周囲が思う以上に復職へのハードルは高いのが実状です。リワークへの理解を深め、休職者がスムーズに復職できるようにすることや、再休職を予防することが必要でしょう。
うつ病の方が受けられるリワーク支援の種類とメリット・デメリット
リワーク支援は、医療機関や障害者職業センター、民間の就労移行支援事業所などで受けることができます。
期間は回復状況によって異なりますが、医療機関でのリワーク支援の場合、3~7か月が目安と言われています。
職場復帰は休職者にとって、とても高いハードルです。通勤の負担や職場での緊張感が症状を再発させ、再休職してしまう方も少なくありません。
リワーク支援を行う主体によって、プログラムの内容や特徴が異なります。違いを知ったうえで自分に合うリワーク支援を選択しましょう。
医療機関で実施するリワーク支援(医療リワーク)
精神科・心療内科で行うリワークプログラムは、病状の回復と再発防止を軸としています。復職の準備ができることが特徴で、復職支援に特化したプログラムが実施され、医療専門職による医学的リハビリテーションとして実施します。健康保険制度や自立支援医療制度を利用でき、費用の一部自己負担があります。
メリット
- 専門医や保健師、看護師、臨床心理士等、スタッフには専門家が多いので安心感がある。
- リハビリの意味合いが強く、再休職の予防が最終目標。
- プログラム内には症状の安定と回復を目的としている。
デメリット
- 復職する意欲がある休職者が対象なので、失業中の方は医療機関主体のリワーク支援を利用できない。
- リワーク支援を実施している医療機関は限られているため、支援を利用する場合、通院先や主治医の変更が必要。
- 費用は一部自己負担がある(健康保険制度や自立医療支援制度は利用できる)。
就労移行支援事業所など、民間で実施するリワーク支援
就労移行支援事業所は、障がいなどの働きづらさを抱えている方が一般企業への就労を目指してスキルや知識を身につける施設ですが、中には休職者のためにリワーク支援を実施している事業所もあります。
働くための能力を身につけ、体力を回復させるプログラムが充実しており、精神に障がいがある方の就職や職場に定着するためのノウハウを豊富に持っていることが特徴です。
うつ病等で休職中の方のうち、復職する意欲がある方が対象になります。他のリワーク支援との違いは、失業中でも復職する意欲があれば利用できる点です。
期間は人によって異なりますが、およそ3~6か月で復帰する方が多く、失業中の方の場合、1年以上かかる場合もあります。
費用は福祉制度を利用することで、自己負担額を1割に抑えることができます。
また、前年度の世帯所得(本人と配偶者)に応じて、1か月あたりの上限金額が設定されています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(注1) | 0円 |
一般1 | 市町村民税非課税世帯(所得割16万円(注2)未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く(注3)。 |
9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
(注1)3人世帯で障害基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。
(注2)収入が概ね670万円以下の世帯が対象になります。
(注3)入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」となります。
無料で利用できる場合もあるため、詳細は自治体の窓口へ問い合わせてみると良いでしょう。
メリット
- 精神に障がいがある方の就職や、職場定着に関するノウハウが豊富。
- 失業中でも復職する意欲があれば利用できる。
- 農作業など独自のプログラムを取り入れている施設もあるので、働き方の視野が広がる場合も。
デメリット
- 専門医などが在籍していないことが多い。
- 都内または都市部で行われているものが大半となるため、地方側で探すのは難易度が高い。
- 就労移行支援事業所の場合、利用できるのは最長2年間と決まっている。
就労移行支援事業所に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
⇒就労移行支援と就労継続支援A型・B型の違いを分かりやすく解説
地域障害者職業センターが実施するリワーク支援(職リハリワーク)
地域障害者職業センターで行われるリワーク支援は職リハワークと呼ばれます。
地域障害者職業センター
独立行政法人高齢・障害・求職支援機構(JEED)によって各都道府県に設置されている、障がい者に対して専門的な職業リハビリテーションなどを行う機関。
役割としては、
- 障がい者の就職に向けた職業リハビリテーション
- 職場に定着できるようサポートするジョブコーチ支援
- メンタルを整え、職場へ復帰するためのリワーク支援
- 障がい者雇用を行う企業に対する助言・サポート
がある。
以下の記事で詳しく解説しています。
⇒地域障害者職業センターとは?役割、他の機関との違いを解説
上記にもある通り、本人だけでなく、雇用主に対してもサポートを行っていることが大きな特徴です。
職場復帰支援(リワーク支援)の名称で、センターに所属している職業カウンセラーが休職者本人と雇用主、主治医の間に入って調整、三者の合意を支援し、12~16週程度の職業リハビリテーションを実施します。
医療機関が行うプログラムとの違いは、職場への適応を目的とする本人と雇用主への支援が主であり、病気を回復させるための治療ではない点が最も大きいでしょう。
利用期間は個別に設定されますが、施設によって期間の目安は変わるため、確認しておきましょう。
地域障害者職業センター一覧|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)
離職ではなく退職している方の場合、就職のための支援である職業準備支援を利用できます。
費用は無料です。ただし、雇用保険財源事業のため、公務員は対象外です。
メリット
- 休職者だけでなく、事業者に対しても助言・支援を行うため復職をスムーズにサポートしてもらいやすい。
- 障がいや疾患がある方の就労・就職に関するノウハウが豊富なので、具体的なアドバイスを受けられる。
- 費用は基本的に無料(ただし、施設によっては有料の場合もあるため、事前の確認が必要)。
デメリット
- 目的は病状の回復や治療ではないため、専門医などが在籍していない場合が多い。
- 利用料金は無償のため希望者が多く、利用までに数か月待機しなければならない場合がある。
- 雇用保険財源事業のため、公務員は利用できない。
職場で実施するリワーク支援(職場リワーク)
企業内で行われる復職支援プログラムを「リワーク」と呼ぶ場合があります。
職場内でのリワークとして、内部に医療機関や専門部署を有している企業や役所では、職場復帰訓練制度を実施している場合があります。また、外部組織による従業員援助プログラム(EAP)を利用する場合もあります。
復職後に安定した就労ができるのか見極めることが目的です。
メリット
- 企業内で行われるため、社内の人間と連絡・連携が取りやすい。
- ほかの施設でリワーク支援を受けるよりも復職時のギャップが少なく感じられやすい。
- 試し出勤をして職場の雰囲気に慣れるなど、正式な復職に備えて段階的に行動できる。
デメリット
- 導入している企業が少なく、一部の企業でしか利用できない。
- 企業内で行われるため、ほかの社員など周囲の目が気になってしまう場合がある。
- 復職を焦るあまり、焦りや不安から体調不安になる可能性もある。
うつ病の方がリワーク支援を利用する上でのメリット・デメリット
リワーク支援自体の利用にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
それぞれ見ていきましょう。
メリット
- 休職と復職の間にリワークという段階を経ることで再発や再休職を防ぎ、復職後の生活や業務に無理なく適応できる。
- 専門のスタッフがいること。医療や仕事について資格や経験のあるスタッフとともにプログラムをおこなうため、客観的なアドバイスをもらいながら取り組むことができる。
- 同じ状況の仲間がいること。リワーク支援を行う機関には似た症状や状況の方とともに利用するため、自分の話を聞いてもらい共感してもらうことや、ほかの方の話を聞いて対処法についてのヒントを得るなど、一人では難しいこともできる。
- プログラムを通して休職中と復職後の差異を埋め、復職した際に心身の負担が軽減できる。職場に近い環境で作業や集団活動を行えるので、一人で作業に取り組み集中力を養い、グループでの共同作業によってコミュニケーション能力を向上させることもできる。
生活リズムが整う
休職中は心身の休養が最優先です。時間に縛られず、無理のない生活スタイルで心身の回復を図ります。
しかし、休職期間の中で睡眠などの生活リズムが乱れることも多く、運動不足や人と接する時間の少なさが体力・気力を低下させてしまいます。
そこで、決まった日にち・時間にリワーク支援に通うことで生活リズムを整え、復職に向けて心身の調子を整えることができます。
セルフケアの習得ができる
復職後は基本的に、休職前と同じ環境で働くことが多いです。そのため、以前と同様の事象にストレスを感じ、症状が再発し、せっかく復職したのに再度休職してしまう方も少なくありません。
体調を崩してしまった原因を把握し、対処方法を身につけることが大切です。
リワーク支援では、自己分析や自己理解、ストレスへの対処のスキルを学ぶプログラムが用意されている場合もあります。それらを通してセルフケアができるようになれば、復職後もさまざまな課題に立ち向かう力になるでしょう。
デメリット
- ある程度の期間、通う必要がある。リワーク支援の利用期間は個人や施設によって異なるが、概ね3~6か月程度が見込まれる。さまざまなプログラムを行うには時間がかかるため、復職を急ぐ方にはデメリットと言える。
- リワークの種類によっては費用が掛かることがある。医療リワークの場合は医療費がかかるなど、種類や状況によって費用がかかる場合がある。休職中に出費があると金銭的・心理的な負担となる可能性も。
- 復職前提の方が利用できる。リワーク支援は元の会社・職場への復職を目指している方向けの制度のため、失業中の方や転職目的の場合は利用できないことがある。
- リワーク支援を行っている機関が少ない、予約が取りづらい、受けたいプログラムが近くでやっていない、などの場合もある。
リワーク支援のプログラムが合わない方もいる
リワーク支援はほとんどのプログラムが集団で行われます。そのため、自分一人ではやる気が起きない方や、さまざまな人の意見や考え方を知りたいと思う方、生活リズムが乱れているため整えたい方、実際に人との関わり方を練習したい方などには向いている制度と言えます。
また、多くのプログラムはうつ病やそれに類似した症状のある方に向けて作られていることが多いです。
これらの理由から、強迫性障害やパニック障害、社交不安障害のような不安障害に類似する症状のある方には、リワークは必ずしも向いているとは言い難いのが現状です。
不安障害やそれに類する症状のある方は、不安への対処スキルを身につけるだけで仕事へ復帰できる方が多いため、まずは不安への対処方法の習得を目指しましょう。
上記のようなメリット・デメリットを知ったうえで適切に支援を利用しましょう。
うつ病の方が受けられるリワーク支援プログラムの内容
リワーク支援での1日の流れとしては
- 午前
会社に勤務しているときと同様に、リワークプログラムを行う施設に通所。プログラムを受ける。 - 昼休み
- 午後
プログラムを受ける。終了後帰宅する。
となります。
リワーク支援で行われるプログラムの内容の詳細は支援機関によって異なりますが、具体的な例を少し挙げてみましょう。
グループミーティング
同じように精神的な不調により休職している方が集まり、自分の症状や生活リズムについてなど、さまざまなテーマについて話し合うプログラムです。
同じような悩みを持つ他の参加者と交流することで、自分では思いつかなかった精神の不調への気づきや発見を得ることを目的としています。
ストレスへの対処
自分はストレスをどのような場面・原因で感じるか、などのストレスに関する問題を、支援者の力を借りながら分析していきます。
また、このプログラムを行う過程で、自分が無意識のうちに陥っている思考パターンや考え方の癖に気付くことで、ストレスへの対処法を学びます。
キャリアデザイン
休職期間を自分の仕事・キャリアに対する考え方を見直すチャンスと捉えるプログラムを行う場合もあります。
今までどのような仕事をしてきたか、自分にどのような能力が備わっているか、などを今までのキャリアを振り返りながら、新たに発見していきます。
上記のようなプログラム以外にも、認知行動療法やSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などの精神療法、休職の原因を振り返り発見する作業(内省)、生活リズムの管理や軽い運動、活動記録の報告などもリワークプログラムで行われることがあります。
これらのプログラムの内容はリワーク支援を実施する機関によって異なるため、自分が利用を検討している機関ではどのようなプログラムが行われているのか、事前に調べておきましょう。
内容・復職へのプロセスは実施している機関によって大きく異なるため、利用したい場合には主治医や上司などに相談してから、どの機関を利用するか決めることをオススメします。
うつ病の方がリワークを利用する流れ
リワーク支援を利用開始するまではどのような手続きがあるのでしょうか?利用するリワークによって違いはありますが、基本的には以下のような流れで進められます。
- STEP1相談リワーク支援の利用先を決めるためには、まずは相談をしましょう。基本的には医療機関、勤務している会社、事業所の3つの相談先があります。
- 主治医やケースワーカーへ相談する。
- 会社の人事担当者や産業医・保健師に相談する。
- 利用を検討しているリワーク支援を行っている事業所へ直接問い合わせる。
- STEP2利用先を決める次に、リワーク支援を利用する機関・事業所を決めます。
事業所によって特色があります。見学や体験ができる所もあるため、事業所を見学したり、プログラムを体験したりしたうえで、自分に合うリワーク支援を探しましょう。
ただし、定員などが設定されている場合もあるので、利用したい事業所へは直接連絡して、受け入れが可能か確認する必要があります。
- STEP3利用手続き利用先のリワークが決まったら、必要な書類等の手続きを確認しましょう。
診断書の提示が必要となることがほとんどのため、主治医に書いてもらうよう依頼をします。
会社とリワーク先が連携をとって復職の計画を立てる場合もあるので、会社の担当者とも協力して進めていきましょう。
- STEP4利用計画の作成本人、主治医、会社、リワーク先の意向をもとに、復職までの計画を作成します。
計画の合意が取れてから利用開始となります。
※就労移行支援事業所では自治体の利用判断が必要、などリワーク支援の種類や事業所によって違いがあるので、詳しくは利用を検討しているリワーク先へご確認ください。
まとめ
- リワークプログラムとは、うつ病などの精神的な不調で休職した方に対して、職場復帰を目指すためのリハビリテーションとして行われているプログラム。
- リワーク支援には、医療機関での医療リワークや地域障害者職業センターで行われる職リハリワーク、職場での職場リワーク、就労移行支援事業所などの民間の事業所で行われるリワーク支援、のような種類がある。
- リワーク支援のメリットとして休職と復職の間にリワークという段階を挟むことで、復職後の生活や業務に無理なく対応できる、などがある。デメリットとしては、ある程度の期間通う必要があるため、リワーク支援を利用する場合は時間的な余裕が必要となる。また、種類によってもそれぞれメリット・デメリットがあるため、自分に合うものを探す必要がある。
- リワーク支援の内容は一概には言えないが、グループでの話し合いや、ストレスへの対処法を学ぶ、キャリアデザインなどがある。支援機関によって異なるため確認が必要。
ここまで、リワーク支援についての解説を行いました。
リワークは基本的に、うつ病やそれに近い症状がある方の職場復帰をサポートするシステムです。
休職している方の仕事復帰や、再休職を防ぐためには有効なシステムですが、それ以外の精神的な不調で休職している方の場合、必ずしも有効な方法とは限らない、という点に注意が必要です。
リワーク支援を利用して仕事復帰に役立てたいと思ったときには、まずは主治医に相談することから始めましょう。
仕事復帰に向けて、リワーク支援を利用する、という選択肢もあることを知っていただけたら幸いです。