近年、IT業界は急成長を続けており、IT系職種の需要は更に加速しています。
障害者雇用でもIT人材を多く募集している時代になりました。プログラミングを使った仕事に興味を持たれている障がい者の方も多いでしょう。
この記事を読んでいる方の中にも、
「障がいがあってもIT業界って入れるのかな?」
「未経験からプログラミングを習得できるの?」
といった疑問を持っている方がいると思います。
プログラミングを学習したい障がい者の方に向けては、さまざまな支援制度が存在します。それらを活用してスキルを身につけることで、未経験からでもプログラミングを仕事にすることができるでしょう。
- 障がい者がプログラミングを学ぶメリット、デメリット
- 未経験者がプログラミングを学ぶ手段
- 障がい者を対象にしたプログラミングを身につけるための支援制度
について解説していきます。
障がい者がプログラミングを学ぶメリット
障がいを持つ方が、プログラミングを学ぶメリットを5つのポイントにわけてご紹介します。
- 給料の高い仕事に就職できる
- 在宅で働くことができる
- 企業から需要があり採用されやすい
- フリーランスを目指せる
- アクセシビリティに配慮された環境で働ける
それぞれ詳しく解説していきます。
給料の高い仕事に就職できる
一般的に障がいを持つ方の平均賃金は、低めの傾向にあります。厚生労働省の調査結果によるとそれぞれの特性を持つ方の平均賃金は、
労働者 | 平均賃金 |
---|---|
一般雇用 | 27万7000円 |
身体障害者 | 21万5000円 |
知的障害者 | 11万7000円 |
精神障害者 | 12万5000円 |
発達障害者 | 12万7000円 |
障害者平均 | 約14万6000円 |
となっており、一般雇用とは大きな差があります。ですが、プログラミング言語を使う仕事は、障害者雇用でも給料が高いことが多いです。
実際に「障害者雇用 プログラマー」と求人情報を検索すると、最低でも月収20万円以上で募集している企業がほとんどです。
そういった給料の高い仕事に就けることが、プログラミングを学習する最大のメリットのひとつでしょう。
また、「実務経験を積む」「スキルを高める」「専門資格を取得する」など、本人の努力次第ではさらなる給料アップを狙うこともできます。
在宅で働くことができる
プログラミング作業は、パソコンがあればどこでもできます。そのため、在宅勤務を前提とした採用や雇用をしている企業が多いです。
在宅勤務では通勤という行為自体がなくなるので、精神的にも肉体的にも負担が軽減されます。 通勤が困難な身体障害者や精神障害者も、心身ともに万全な状態で就労し、存分に能力を発揮することができるでしょう。
在宅勤務を取り入れている企業の求人には、他県からでも応募できることが多いため、就労する機会が増えることも大きなメリットになります。
企業から需要があり採用されやすい
近年、IT業界は健常者・障がい者共に人手不足に悩まされています。
経済産業省による調査では、IT業界において、2030年に最大で79万人の人材不足が起きると言われています。
加えて厚生労働省が発表している集計結果によると、IT・情報産業における障がい者雇用の法定雇用率達成企業の割合は27.2%です。全体平均48.3%と比較してかなり少なく、産業別では最低の割合です。
原因のひとつに、必要なプログラミングのスキルを身に着けた障がい者が少なく、採用したくても採用できない状態になっていることが挙げられます。
こういった状況の中で、プログラミングスキルを身につけている障がい者は企業からの需要も高く、採用されやすいでしょう。
参照:IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果|経済産業省
参照:令和4年 障害者雇用状況の集計結果|厚生労働省
フリーランスを目指せる
プログラミングを学びスキルを上達させていけば、将来的にフリーランスとして働くことも可能です。
フリーランスで働く場合は、会社員やアルバイトと違い雇用契約を結びません。勤務時間や働く場所を自分の好きなように決め、仕事内容も自分で選ぶことになります。
自分で仕事を管理しなければいけないため難易度は高く、かなりのスキルを求められますが、企業に縛られない自由な働き方を目指せます。
アクセシビリティに配慮された環境で働ける
障がいを持つ方が就労する際は、「アクセシビリティに配慮された環境で働けるかどうか」が非常に重要です。
「アクセシビリティ」には「近づきやすさ」「利用しやすさ」という意味があり、障がい等があっても不自由なく利用できるかどうかを評価する指標です。
現在PCを扱う仕事においては、障がい者でも扱いやすいように改良されたツールが多く発明されるなど、アクセシビリティが向上しています。
具体的には、視覚障がいがある方に向けた読み上げ機能や点字ディスプレイ、身体障がいがある人向けの視線入力装置など、多様な対策がなされています。ITと障がいを持つ人との壁は崩れつつあると言えるでしょう。
障がい者がプログラミングを学ぶデメリット
次に障がいを持つ方がプログラミングを学ぶデメリットを2つご紹介します。
- 覚えることが多く、常に勉強し続ける必要がある
- 人によっては不向きな場合がある
それぞれ詳しく解説していきます。
覚えることが多く、常に勉強し続ける必要がある
プログラミングの学習は覚えることが多く、非常に時間がかかります。
一般的に、プログラミングの基礎を習得するにはおよそ200時間かかると言われており、そこからスキルを実務レベルまで高めるには、少なくとも1000時間は必要でしょう。
IT業界に就職した後も、毎日の勉強は欠かせません。
IT技術は日々進化しています。常に最新の知識やスキルを身に付けなければならないため、他の業種よりも多くの勉強時間が必要になります。
業務と勉強の両立が求められる中で体調やメンタルに不調をきたさないよう、注意を払う必要があります。就労する際は企業側に障がいの特性をしっかりと理解してもらい、対策をしてもらいましょう。
人によっては不向きな場合がある
どんな職種にも、人によって「向き不向き」はあります。プログラミングも例外ではありません。
プログラミングに適性がない方が無理してIT業界に入ってしまうと、業務に強いストレスを感じるようになり、長続きしない可能性があります。
ネット上には、下記のように「プログラミングへの適性」を手軽に検査できるサイトがいくつか公開されています。
「プログラミングに興味があるけど、自分には適正があるのだろうか?」と疑問に思っている方には、これらを活用して適正をチェックしておくことをおすすめします。
未経験からプログラミングスキルを身につける方法
未経験者がプログラミングを一から勉強するための3つの手段を紹介します。
- 独学で習得する
- プログラミングスクールに通う
- 障がい者向けの支援制度を活用する
順に解説していきます。
独学で習得する
プログラミングは、本やWebサイトを使い、独学で身に着けることも可能です。
独学の主なメリットは、主に次の2つです。
・比較的お金がかからない
・手軽にはじめやすい
プログラミングの教材はインターネット上で多く公開されており、無料のものもあります。本で学習する場合も1冊2000円ほどで購入できるため、比較的お金をかけずに勉強することができるでしょう。
思い立った時にすぐ始めることができる手軽さも大きなメリットと言えます。
一方で、以下のようなデメリットもあります。
・何から勉強したらいいか分からなくなる場合がある
・つまずいたときに相談できる相手がいない
・モチベーションが続かない可能性がある
プログラミング言語は種類が多く、業種によって必要となる言語も全く違います。そのため、未経験の人は何から始めてよいか分からなくなり、学習を始める前の段階からつまずきやすいです。
難易度も高く、分からない所は自分で調べて解決していく必要があるため、独学でプログラミング学習をしている人のほぼ半数は挫折や行き詰まりを経験すると言われています。
プログラミングへ興味を持つための入門として、独学はおすすめです。よりスキルを上達させ、ステップアップしたいと感じるようになった方は、次に説明するプログラミングスクールなどの利用も検討しましょう。
プログラミングスクールに通う
プログラミングスクールは、IT業界で現役のプロから直接プログラミングを学ぶことができる施設です。
プログラミングスクールを利用した学習には、次のようなメリットがあります。
・効率的に学ぶことができる
・分からないことはすぐ質問できる
・受講生が多くいるのでモチベーションが落ちにくい
・就職のサポートが手厚い
プログラミングスクールではその人のレベルや目標に合わせたコースを用意してもらえるため、効率よくプログラミング言語をマスターすることができます。
実務経験が豊富なプロがいるので、分からない部分はすぐ質問することができます。また、受講生同士で教えあったり励ましあったりすることで、モチベーションも保ちやすいでしょう。IT業界への就職支援も手厚く、未経験の方にとってありがたいサポートが充実しています。
最大のデメリットは、受講料が高額であることです。
受講期間やサポート内容によってばらつきはありますが、未経験から就職できるレベルまで学習するのに必要な金額は、約30万円が相場となっています。
そのため、金銭面に余裕がある方にはおすすめです。ただし、障害者手帳を所持している方は後述の障がい者向けプランを活用することで、より少ない負担で学習できます。
障がい者向けの支援制度を活用する
近年では、IT人材の不足や障がい者の法定雇用率の上昇に対応するため、障がいを持った方をIT人材に育成していく流れが強まってきています。
この流れに合わせ、プログラミングに特化した障がい者向け支援サービスが徐々に増えています。
障害者手帳を所持している人はこれらの支援を活用することで、無料でプログラミングスクールに通うことや、働きながらプログラミングスキルを身に付けることが可能です。
次の章から支援制度の内容について詳しく解説していきます。
プログラミング学習に特化した障がい者向けの支援制度を紹介
先ほどご説明した通り、近年では障がい者を対象にしたプログラミング学習に特化している支援制度が増えてきています。
- 就労移行支援
- 就労継続支援(A型・B型)
- プログラミングスクールの障がい者向けプラン
これらを実際に行なっている事業所や企業を紹介しながら解説していきます。
就労移行支援
就労移行支援とは、障がいを持っている方を対象として「一般企業へ就職するために必要なスキルを身に付ける訓練」を提供しているサービスです。
スキルを身に付けるための訓練や就職活動のサポートなど、手厚い支援を受けることが出来ます。
18歳から65歳未満の方が主な対象になっており、ほとんどの人が無料で利用することができます。
就労移行支援事業所の利用料については、以下の記事も参照してください。
プログラミング学習に特化している就労移行支援を2件ご紹介します。
atGPジョブトレIT・Web
障がい者の転職サービス業界大手の「atGP」が運営する就労移行支援サービスです。
東京、千葉、埼玉、大阪に事業所があり、通所して支援を受けます。
教材費用が一切かからず、PCやソフトも完備しているため、通常のプログラミングスクールなら30万円ほどかかるサービスを無料で受けることができます。
プログラミングスキル以外にもビジネススキルや自分の障がい・症状への対処法について学ぶことができ、就職が決まった後も安定就労に向け3年間の手厚いサポートがあります。
フロンティアリンクキャリアセンター
「フロンティアリンクキャリアセンター」は、地域密着型のITに特化した就労移行支援サービスです。 計3万人以上の受講実績を持つプログラミングスクールを、障がい者の方でも利用できるように就労移行支援として運営しています。
北海道から九州まで幅広く事業所が展開されているため、地方にお住まいの方でも通所しやすいでしょう。
さらにフロンティアリンクキャリアセンターは、在宅での学習・就労サポートも行っています。原則として月1回の通所や市区町村の許可が必要になりますが、家にいながら通所型と同様の訓練を受講することができます。
在宅ワークを希望している人に向けた求職活動の支援もしているので、通所するのが困難な人や、在宅勤務を希望している方にもおすすめです。
就労継続支援(A型・B型)
就労継続支援とは、一般企業で働くことが困難な障がい者の方を対象に、働く機会を提供するサービスです。
就労移行支援との最も大きな違いは、賃金が発生することです。
就労移行支援と就労継続支援の違いについて、詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
以前は梱包、シール貼りなどの軽作業が主な業務でしたが、最近ではプログラミングを用いた業務を提供している就労継続支援事業所も増えています。
就労移行支援と違い「働く場の提供」が主となるため、就労移行支援と比べるとスキルアップに時間がかかる可能性があります。ですが、スキルを身に付けながら収入を得られることは、大きなメリットでしょう。
プログラミング業務がある就労継続支援の一例を紹介していきます。
ぎふ就労支援センター(就労継続支援A型)
当サイトを運営している就労継続支援A型事業所です。
IT業務を主な事業としており、Webサイトの制作やWebデザイン事業を手掛けています。
各業務のカリキュラムやマニュアルが完備されているのに加え、専属のWebディレクターが常駐しているため、未経験の人でもしっかりとスキルを身につけながら業務にあたることができます。実際に入所者の8割が未経験の状態からスタートしています。
未来のかたち(就労継続支援B型)
大阪に4つの事業所を展開している就労継続支援B型事業所です。
IT人材、プログラマー育成に特化しており、プログラミングからWebデザイナーまで幅広いカリキュラムを提供しています。
資格を取得する為の費用を事業所が負担してくれることが大きな特徴のひとつです。
体調や障害に合わせて自分のペースで就労することができ、在宅での学習や短時間の通所も可能です。
プログラミングスクールの障がい者向けプラン
先ほど紹介したプログラミングスクールですが、障がい者を対象としたプランが用意されている場合もあります。
以下のプログラミングスクールには、障がい者手帳を提示することにより割引価格で通う事が可能です。
侍エンジニア塾
侍エンジニア塾は、累計指導実績45,000名以上の実績を持つ大手プログラミングスクールです。
障害者手帳を所持している人は、侍エンジニア塾の「障がい者向け優待プログラム」を活用することで、優待価格で利用できます。
さらに、侍エンジニアは経済産業省が認定しているキャリアアップ事業対象スクールであるため、給付金の対象となります。障害者優待コースと併用することで、最大48万円の割引が適用されます。
まとめ
今回の記事では、障がいを持つ人がプログラミングを学ぶメリットや、利用できる支援制度を紹介しました。
- プログラミングを使った仕事は障がい者でも給与が高く、在宅勤務やフレックスタイム制など自分の障がいに適した働き方ができる
- プログラミングには向き不向きがあるので事前に自分の適正について調べておくことが大事
- 未経験でもプログラミングスクールや障がい者向けの支援制度などを活用して効率よくプログラミングを学ぶことができる
- 障がいを持つ人はプログラミング学習に特化した就労移行支援や就労継続支援、プログラミングスクールの優待割引を活用してスキルを身につけることができる
この記事を読んで「プログラミングに挑戦してみよう!」と思ってくれる方が少しでも増えたら幸いです。
自分に合った支援制度を利用しながらスキルを身につけ、安定した就労を目指していきましょう。