パニック障害とは、突然、強い不安感に襲われ、動悸や呼吸困難などのパニック発作が起こる病気です。
パニック障害があると、通勤時の発作が怖くて出勤できなくなったり、職場で発作が起きることを心配して緊張感や不安感に襲われたりするなど、仕事を続けることが困難になる場合があります。
特に、業務に支障が出てしまうと、パニック障害を会社に言うべきなのか、伝えることでデメリットはないのかと悩む方も多いのではないでしょうか?
「職場に伝えることで仕事をクビになることもあるかも……。」
「パニック障害について正しい理解を得られるのか心配……。」
このようにパニック障害を職場に伝えることに悩んでいる方へ、
- パニック障害を会社に公表すべき場合とは
- パニック障害を職場に伝えるメリット・デメリット
- パニック障害を会社に伝えるときのポイント
- パニック障害で仕事をクビになるケース
について解説していきます。
パニック障害を会社に言うべき場合とは?
パニック障害があることを会社に言うべきか悩んでいる方には、企業に入社する前の方と、既に入社済みの方がいると思います。どちらもパニック障害によって業務に支障が出る可能性がなければ、パニック障害があることを会社に伝える必要はありません。
何らかの病気や障がいがあっても、業務に支障がない場合は、伝える義務はないです。
パニック障害を公表する必要があるのは、「業務に支障が出る場合」になります。
業務に支障がある場合
先ほど、既に業務に支障が出ている場合や、今後支障が出る可能性がある場合は、パニック障害を会社へ伝える必要があると述べましたが、理由としては、パニック障害を隠すことで、職場でトラブルになる可能性があるためです。
突然パニック発作が起きて周りを驚かせる、体調不良による早退・欠勤が増える、などの事が多発すると、会社側から不審に思われたり、仕事に熱意がないのだと誤解されたりして信用を失ってしまい、業務を任せてもらえなくなる可能性があります。
パニック発作によって仕事に支障を感じている場合は、会社にパニック障害があることを伝えて、仕事に影響が出ないように工夫をしていきましょう。
会社に相談することで、在宅勤務への切り替えができたり、早退して通院することが可能になったりと、一人で抱えていた問題が解決することもあります。
職場での信頼関係を崩さず仕事を続けるために、信頼できる上司や親しい同僚に、調整してほしい業務や困りごとについて相談してみましょう。
また、労働者と会社側にはそれぞれに、「労働者が安全に業務を遂行できるようにする」義務があります。
労働者の自己保健義務
自己保健義務
労働者は自身の健康管理に注意を払い、健康に異常が起きたときは、会社が行う従業員の健康管理措置へ協力するために、健康状態を申告する必要がある。
労働者に課せられた義務であり、労働安全衛生法で定められている。
健康上の理由で業務に支障が起きてしまう場合は、会社側に配慮をしてもらい、健康状態を悪化させずに業務を遂行できるように調整してもらう必要があります。
会社側の安全配慮義務
安全配慮義務
労働者が命や身体の安全を確保しながら労働できるように、会社が労働者の安全に配慮する義務。
会社側に課せられている義務であり、労働契約法第5条に定められている。
安全配慮義務には、労働者が安全に作業できるように労働環境を整えるだけでなく、労働者の健康についての情報を得て、業務により労働者の病気や障がいが悪化しないよう、業務内容を調整する義務も含まれます。
このように、「業務に支障がある場合」は労働者は会社と協力しながら、障がいに配慮した適切な措置をしてもらい、業務に取り組んでいく必要があります。
業務に支障がない場合
業務に支障が出ていない場合は、すぐにパニック障害を公表する必要はありませんが、親しい同僚や直属の上司だけには、打ち明けようかと悩んでいる方もいるかもしれませんね。
その場合は障がいに対して正しい理解が得られるように、パニック障害について、伝え方をよく考えてみましょう。
障がいによる差別はしてはならないことですが、「パニック障害がある」と聞いた時に、「障がい」という名前にインパクトがあるため、戸惑う方もいるのが現状です。
自分に起きたことがない障がいを正しく理解できる人は少ないため、相談した相手によっては理解を得られずに、打ち明けたことでかえってショックを受けてしまう場合もあります。
正しく伝えられるように、後述する「パニック障害を職場に伝える時のポイント」を参考に伝え方を工夫してみてください。
パニック障害の知識がない方でも理解しやすいように、発作がどれくらいで収まるのか、発作が起こりそうなときに薬を飲むことで対処ができる、ということも伝えておくと良いでしょう。
パニック障害を会社に伝えるメリット
パニック障害を職場に伝えたときのメリットとデメリットを比較してみましょう。
パニック障害を伝えて配慮を受けることで、プラスになることもありますが、逆にマイナスになってしまう場合もあります。
業務の調整をしてもらいやすい
緊張が高まるプレゼンや、朝礼時のスピーチが発作の原因になる方は、発作が改善されるまでは役割を外してもらえるよう、相談してみましょう。
過度な緊張やストレスは、パニック障害の方にとって大きな負担となるので、発作の原因となる業務については調整をしてもらいましょう。
また、閉鎖空間でパニック発作が起きやすい方の場合、乗り物を利用する必要がある長時間の出張が困難な場合もあります。上司などに閉鎖的な逃げ場のない空間でパニック発作が起きやすいことを説明しておきましょう。
在宅勤務への切り替えができる
通勤ラッシュ時の混雑する電車やバスは、パニック発作を起こす可能性が高く、通勤自体が怖いという方もいるでしょう。
通勤時間をずらして、空いている時間帯に出社する方法もありますが、業務によっては在宅勤務が可能な場合もあります。症状が安定するまで在宅勤務の許可をもらうという方法もあります。
通院のための早退許可をもらえる
パニック障害の治療のために、会社を早退して通院しなければならない場合もあります。
精神科・心療内科は平日しか受診できないところもあるため、受診する医療機関によっては早退許可が必要になる場合もあります。
早退理由をはっきりさせずに何度も早退を繰り返すと、仕事をやる気がない人だと思われてしまう可能性もあるので、誤解されないように通院していることは隠さずに話しておきましょう。
発作時のサポートを頼める
職場でパニック発作が起きそうなときに、同僚にサポートを頼めると心強いですよね。
同僚のサポートがあれば、仕事中の発作に対する不安や緊張を和らげることができ、落ち着いて業務に取り組むことができます。
パニック発作の予兆が出たときは、一声かけて側にいてもらったり、過呼吸になってしまったときは、呼吸を整えるために背中をゆっくり押してもらったりして、発作を落ち着かせるためのサポートをお願いしてみましょう。
事前にパニック発作について伝えておくなど、職場での理解を得られるようにしておき、発作が起きても大丈夫な環境づくりをしておけるとよいですね。
パニック障害を会社に伝えるデメリット
正しい理解が得られない
パニック障害について症状を説明しても、正しく理解してもらえない場合があります。
周りにパニック障害の方がおらず、初めて説明を聞く方の中には、パニック障害について理解することが難しい方もいます。
人によっては、気持ち次第で克服できる病気だと捉えられてしまう場合もあり、当事者の辛さがなかなか伝わらない場合もあります。
希望の業務から外される
パニック障害によって業務に支障があると伝えた際、人によって説明の解釈が異なるため、パニック障害の程度が実際より重く判断される場合があります。
症状を正しく理解してもらえないと、希望の業務を外されてしまうこともあるため、間違った判断をされないように、丁寧に説明をしましょう。
また、相談する際は相手に時間がある時を選んで話しかけるか、事前に相談する時間を作ってもらうなどして、余裕を持って話を聞いてもらえるようにしましょう。
職場での評価に影響する
パニック障害によって業務上の配慮をもらったり、求職したりした後などに、周りと同じように出世することが難しくなる場合があります。
企業により人事評価の基準は異なるのですが、業績や能力だけでなく、健康面も重視している企業もあるため、パニック障害が落ち着いても健康面を心配されてしまい、その後の昇進に影響する場合があります。
パニック障害を会社に伝えるときのポイント
パニック障害があることを職場に伝える際は、自分の症状や発作がどのように仕事に影響しているか、仕事をするうえでどんな支障があるかを、正確に伝える必要があります。
伝える前に、まずかかりつけの医師などの専門家に相談して、
- パニック障害の伝え方・アドバイス
- 職場で業務の配慮を求めるときのポイント
を聞いておくと、パニック障害の知識がない職場の方にも、より分かりやすく伝えることができます。
パニック障害について相談するときは主に、
- これまでの症状
- 発作が起きやすい状況
- 発作が起きたときの対処法
- 業務上で配慮を受けたい内容
などについて話しますが、パニック障害でも人によって配慮を受けたい部分は異なるので、できる仕事までできないと誤解されないようにするために、会社側には、症状を丁寧に説明して、配慮を受けたい内容について正しく理解してもらうようにしましょう。
かかりつけの病院がなく、相談先に迷ったときは、各都道府県にある精神保健福祉センターや地域障害者職業センター、障害者就業・生活支援センターなどで、相談してみると良いでしょう。
精神保健福祉センターでは無料で相談することができます。
⇒全国の精神保健福祉センター一覧|厚生労働省
地域障害者職業センターについては、以下の記事で解説しています。
地域障害者職業センターとは?役割、他の機関との違いを解説
障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)について、以下の記事で解説しています。
「なかぽつ」こと「障害者就業・生活支援センター」とは?
あまりにも合わない場合は、転職という選択肢も
パニック障害について周囲の方になかなか理解してもらえない場合や長時間の出張が必須な場合など、障がいと環境が合わない場合もあるでしょう。そんな時は、職場を変える、という手もあります。
追い詰められているときは現在の職場しかない、と考えてしまいがちですが、冷静な状態で考え、現状を良くするために転職という選択肢を増やしてみても良いのではないでしょうか。
パニック障害の方に向いている仕事や活用できる制度に関して、以下の記事で解説しています。
パニック障害に向いている仕事とは?就職・職場復帰に活用できる制度も解説
パニック障害で会社をクビになるケース
パニック障害が原因で業務を遂行できない状態が続くと、仕事をクビになる可能性が出てきてしまいます。
会社が病気や障がいを理由に解雇するのは法的に問題がありますが、客観的に見て合理的な理由によって解雇が社会通念上相当であると認められる場合、解雇が認められることもあります。
病気や障がいによって解雇できる場合として、次の二つの場合が挙げられます。
- 精神または身体の障がいにより業務に耐えられない場合
- 業務上のケガや病気で療養が3年を経過しても治らない場合
精神または身体の障がいにより業務に耐えられない場合
従業員が病気や障がいにより業務が行えない状態になったときに、会社側に解雇が認められる場合があります。
ただし、解雇できるのは就業規則に「精神または身体の障がいにより、業務に耐えられない場合」という旨の記載があった場合に限られます。
また、解雇する30日以上前に、会社は従業員へ解雇の予告をする必要があります。30日未満で解雇する場合、会社は従業員に対して解雇予告手当を支払う義務が発生します。
障がいを理由に突然解雇することは違法となるため、解雇には上記のように決まった手順を踏むことが定められています。
業務上のケガや病気で療養が3年を経過しても治らない場合
従業員が病気や障がいになった原因が業務に関係している場合は、療養期間とその後の30日間の間に解雇することは認められません。
しかし、3年を経過しても完治せず療養を続けている場合は、以下の場合に解雇が可能になります。
労働者が傷病補償年金を受けている場合、または受けることになった場合
3年を経過しても傷病補償年金(※)を受けている場合は、まだ完治していないとみなされるため解雇が可能になります。
※傷病補償年金
療養補償給付を受けている労働者のケガや病気が、1年6か月を経過しても治らない場合に支給される年金
会社が打切補償を支払った場合
労災保険の療養補償給付が支払われて3年を経過しても、従業員のケガや病気が治らない場合は、会社が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払うことで、その従業員への補償を終了できます。
打切補償を支払った場合は、従業員が療養中であっても解雇が可能になります。
まとめ|パニック障害は会社に伝える?隠す?
- パニック障害を会社に公表する必要がある場合は、「業務に支障がある場合」に限られるため、「業務に支障がない場合」はパニック障害があることを隠すことに問題はない。
- パニック障害を職場に伝えることで、業務の調整や発作時のサポートなどをしてもらうことができる反面、希望の業務を外されることや、人事評価や昇進に影響する可能性もある。
- パニック障害を職場に伝える前に、医師や専門家に相談して、パニック障害について分かりやすく伝えられるよう、アドバイスをもらうと良い。
- パニック障害により、業務に耐えられない場合や、3年を経過しても障がいが治らない場合は解雇になる可能性がある。
仕事でパニック障害による支障を感じている時は、身体と心を守るために、早めに会社に相談して業務の配慮をしてもらうことが必要です。
仕事を続けつつ、パニック障害の症状を改善させていくために、自分に合った選択をしていきましょう。