障がい者の方々は、体調や特性によりどうしても働ける場やできる仕事が限られてしまうのが現状です。
福祉的受け皿として機能する就労継続支援A型・B型事業所では、最低賃金やそれ以下の工賃しか得られず、生活が困窮する方も少なくありません。
中には生活保護を受給する作業所の利用者もあり、当記事では生活保護と作業所での就労について解説しました。
まずは生活保護の基礎知識からお読みください。
目次
生活保護制度とは
生活保護とは、働くことが困難な方のために最低限度の生活を保障する制度です。
支給される金額は10万~20万ほどで、住居地の等級や世帯人数によって金額が変わります。保護開始時に持ち合わせがない場合や冷暖房が無いため健康被害が出た場合などは、例外的に一時扶助が認められこともあり、また保護費には様々な加算要件があります。
受給資格を得る前には、他の制度での救済が可能ではないか、生活費を資産の売却などで捻出できないか、検討されます。
受給者は福祉事務所を通して申請を出し、ケースワーカーや福祉事務所の職員によって生活の管理をされます。例えば1年に2回以上ケースワーカーの訪問調査により、制度上のルールを逸脱していないかチェックされます。
生活保護の種類
生活保護費の内訳は8項目に分類されます。
生活扶助 | 日常生活に必要な費用 |
---|---|
住宅扶助 | アパート等の家賃 |
教育扶助 | 義務教育を受けるために必要な学用品費 |
医療扶助 | 医療サービスの費用 |
介護扶助 | 介護サービスの費用 |
出産扶助 | 出産費用 |
生業扶助 | 就労に必要な技能の修得等にかかる費用 |
葬祭扶助 | 葬祭費用 |
生活扶助は受給者の生活費であり、以下の4項目で構成されます。
- 基準生活費
- 加算(母子家庭、妊婦、障がい者など)
- 入院患者日用品費(寝間着やタオルなど)
- 一時扶助(被服費、移送費など)
生活保護を受給するデメリット
生活保護は受給すると生活に様々な制限が伴います。
例えば、所有物の制限があります。
所有物の制限
所有が認められない物
- 持ち家
- 車
- 薄型テレビ
- パソコン
- 2台目のスマホ
- アクセサリーなど装飾品
- 趣味の物
- 贅沢品
- クレジットカード
- 有価証券
- 貯蓄型の保険
持ち家の所有が認められないため、生活保護を受給するためには賃貸物件に住まなければなりません。
家賃の上限が設定されており、それ以下の物件にしか住めませんが、家賃は住宅扶助として主たる生活費とは別枠で算定されます。
車の所有に関しては、就職にどうしても必要な場合であれば例外が認められることもあるようです。
その他に、一定額以上の預貯金、借金は認められていません。保護開始時にローンや借入がある場合は返済するか自己破産などの債務処理が行われるのが一般的です。
また隠していた預貯金が発覚した場合は保護が打ち切られます。収支状況は定期的に報告する義務があり、怠ると不正受給とみなされます。
生命保険や医療保険といった民間の保険なども、掛け捨てタイプのものしか加入できず、貯蓄タイプの保険は財産に相当するため禁止されています。
生活保護と医療費
生活保護中は医療費も医療扶助として生活扶助とは別枠の保護費で賄われます。
ですが、指定の医療機関しか受診できません。
健康保険証も持てず、福祉事務所から渡される医療券を窓口で提出します。処方は原則後発医薬品しか認められず、頻回受診者には指導員の付き添いなどの対策が取られます。
生活保護が支給される基準
居住する地域の物価などから算出された最低生活費を、世帯収入が下回る場合に受給資格が生まれます。
つまり住居地と世帯人数によって資格が得られるか変わり、東京で一人暮らしの場合だと、月13万円が最低生活費になるため、毎月の収入が13万円以下であると受給資格が生まれます。
働くことが可能であれば就労により生活費を捻出するのが原則で、預貯金や資産の活用も求められます。
また親族の安定した援助が活用できるのであれば受給資格は生まれません。
親族の扶養義務
生活保護を申請すると、両親や親戚に当事者を扶養可能かどうか「扶養照会」の連絡が入ります。
あらゆるものを活用してそれでも最低生活費を捻出できない場合に支援するための制度なので、扶養照会を避けることはできません。扶養されることができる場合は、生活保護の受給も見送りです。
A型事業所に通う場合は打ち切られる可能性が高い
A型作業所は雇用契約を結び、月7万円程の給与が貰えるため、安定した就労とみなされます。
生活保護の受給額より収入が少なくとも、障害者年金を受給すれば最低生活費を上回るため、A型作業所に通所しつつ、新たに生活保護を受給開始することは不可能です。
既に生活保護を受給している人であれば、福祉事務所の判断如何により、A型作業所に就職したことで保護を打ち切られることもあります。
原則、就労により生計が立てられない人のための救済制度が生活保護であるため、一人世帯で雇用契約を結び安定就労すれば保護の対象外となります。
生活保護費は収入に応じて減額される
親族からの仕送りや賭け事の収入など、例え突発的な収入であっても受給者は申告義務があります。
申告した収入金額分は、生活保護費より差し引かれ、減額処理がなされます。
その場合 最低生活費-収入=支給分 つまり、最低生活費と収入の差額分が支給金額になります。
生活保護の勤労控除とは
生活保護には勤労控除もあります。就労に伴う必要経費を補填する目的で、収入による生活保護費の減額分を減らしてもらえます。
勤労控除には以下の種類があります。
基礎控除 | 給与収入の控除 |
---|---|
未成年者控除 | 未成年が就労している場合の控除 |
新規就労控除 | 新たに就職した場合の控除 |
必要経費 | 働くために必要な経費の控除 |
工賃が15,000円を超えると生活保護費の減額対象
工賃は15,000円以上だと収入認定されます。収入があると生活保護費からその分差し引かれる規則のため、つまり工賃が15,000円以上を超えると生活保護費が減額されます。
この15,000円は最低基礎控除額でもあり、勤労控除の一種です。
収入が15,000円以下であれば全額控除となり、月に使えるお金が増えます。
交通費の支給は収入に含まれない
交通費は就労のための必要経費とみなされ、実費で控除されます。
交通費が会社から支給されている場合も控除の対象となり、全額より少ない場合でも実費分必要経費として算定することが可能です。
生活保護だと非課税になる?
生活保護を受給すると、所得税など以下の税金が免除されます。
- 所得税
- 住民税
- 個人事業税
- 国民年金
- 固定資産税
- 自動車税
- 国民健康保険
- 保育料
税金以外にも、以下の公的料金も支払い免除や割引がなされます。
- 水道料金
- 医療費
- 介護費
- 葬祭費用
- NHK受信料
- 弁護士費用
- JR定期券(通勤用)
障害年金と生活保護の併用は可能。だが減額される。
生活保護と障害者年金の併用はできますが、同時に満額ずつ受給することは不可能です。
障害者年金の方を優先的に支給され、生活保護は年金額を差し引いた金額が支給されます。
障害等級が1級・2級の場合は、生活保護費に障害者加算が付きます。
障害者加算(障害等級1級・2級)
在宅 1級地 | 26,810円 |
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2級地 | 24,940円 |
3級地 | 23,060円 |
入院または 施設入所者 |
22,310円 |
生活保護の考え方として、まずは他の制度による支援を検討活用し、それでも不足する分を生活保護で補うというのが基本です。
障害者年金には所有財産の制約や収支報告義務もないため、生活保護と比較すると自由度が高いと言えます。
障害者年金のみを受給すれば生活保護のデメリットを負うこともなく、作業所就労することで最低生活費分を捻出することが可能です。
精神障害の方であれば回復の見込みもあり、将来設計をしつつ受給を検討することが望ましいかと思います。
参照:【PDF】2020(令和2)年4月1日施行生活保護実施要領等|厚生労働省
まとめ|作業所(A型・B型事業所)に通うと生活保護は打ち切られる
以上が生活保護の基礎知識、生活保護と作業所就労に関する知識でした。
生活保護の受給者は現在高齢者の割合が多く、また若年であっても障がいの重い方の受給が目立ちます。
前述の通り、障がい者が働ける場はまだまだ少なく、作業所就労していたとしても支援がなければ生活できないケースがほとんどです。
どうしたら障がいのある方の労働力を活用していけるのか、まずはそこから考える必要があるのかもしれません。