発達障害がメディアで取り上げられるようになった昨今、「発達障害」の存在は広く認知されるようになりました。このような背景から、「自分も発達障害ではないか?」と考えて病院を受診する方も増加しています。
この記事にたどり着いたあなたは、
「人間関係が苦手で引きこもりになったけれど、原因は発達障害なのでは?」
「職場でミスして怒られるのが辛い。退職して引きこもり、生きづらさを感じている……」
このような疑問・悩みを抱えていないでしょうか?
- 大人の発達障害の種類と代表的な症状
- 引きこもりと発達障害の因果関係
- 発達障害の診断を受ける方法
- 発達障害の引きこもり当事者が受けられる支援
について解説します。
私自身、発達障害の診断を受けている元引きこもりです。今回の記事を読んで、引きこもりに悩んでいて発達障害かもしれないと考えているあなたが、どうすれば「生きやすさ」を手に入れられるのか、一緒に考えていきましょう。
大人の発達障害とは?引きこもりとの因果関係について解説
発達障害とは生まれつきの障がいであるため、大人になってから急に発症するということはありません。
しかし、「落ち着きがない」「物事の得意・苦手がはっきりしている」などの発達障害が疑われる症状は、子供特有の「個性」とみなされて問題視されないケースが数多くあります。発達障害の症状が軽度である場合も、子供の頃に気付かれず見過ごされてしまう原因になります。
ところが、大人になるにつれて「人間関係がうまくいかない」「仕事でのミスが多い」などの形で悩みが表面化することで、漠然と「周囲の人とは何か違う」という生きづらさを抱えるきっかけとなり、発達障害を自覚するようになるのです。
大人になってから気付いて診断されるため、「大人の発達障害」と呼ばれています。
以下では、発達障害の種類や引きこもりとの因果関係について解説していきます。
代表的な3つの大人の発達障害
発達障害は大きく分けると、
- ADHD(注意欠如・多動症)
- ASD(自閉スペクトラム症)
- LD(学習障害)
これら3つに分類されます。
誰であっても程度の差はありますが発達障害の特性は持っていると考えられており、その特性が一定の基準を超えた場合に発達障害と診断されます。
しかし、発達障害は複数の症状が併発する可能性もあり、断定するのが難しい障がいです。発達障害は病気ではなく障がい・特性であるため完治させる方法は見つかっていません。発達障害との付き合い方や対処方法を理解してあなた自身が症状をコントロールするほか、症状を緩和するための薬を服用するのが現状では最も効果的な方法とされています。
セルフチェックの結果や日常生活の困りごとから発達障害が疑われる場合、精神科医などの専門の医療機関を受診することが大切です。
それでは、3つの発達障害の症状について詳しく見ていきましょう。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDとは、「不注意」「落ち着きがない」「衝動的に行動する」という3つの傾向が表れやすく、日常生活に支障をきたしやすい発達障害です。ADHDは大人の発達障害の中で最も多くの人が診断されており、ADHDを公表する有名人も増えたことから広く認知されるようになりました。
ADHDの具体的な症状には、以下のようなものがあります。
- 物の管理が苦手で、忘れ物や物を紛失することが多い(不注意)
- ケアレスミスが多く、時間や約束を忘れてしまうことが多い(不注意)
- 無意識に貧乏ゆすりなどをすることが多く、じっと座っていられない(多動性)
- 思ったこと口に出しやすいため、会話をさえぎって話すことや失言が多い(衝動性)
ADHDについては症状を緩和する薬が開発されています。日常生活にきたす支障が大きい場合は、セルフチェックシートの結果などを持参の上で専門医に相談するとよいでしょう。
⇒大人の注意欠如・多動症 (ADHD)とは – 武田薬品工業 | 「大人の発達障害ナビ」
⇒発達障害セルフチェック – 武田薬品工業 | 「大人の発達障害ナビ」
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDとは、社会生活やコミュニケーション能力に難しさを感じると共に、特定の物事に対する強い興味・こだわりを持つ傾向がある発達障害です。ASDとADHDには共通する特性もあり、2つを併発しているケースも存在するため、ASDはADHDと並んで注目されている発達障害となっています。
ASDの具体的な症状には、以下のようなものがあります。
- 言葉を文字通りに解釈しやすく、冗談や曖昧な言葉を理解できない
- 相手の感情を察することが苦手で、思ったことをそのまま口に出してしまう
- 親密な人付き合いが苦手で、対人関係によってストレスを感じやすい
- 自分で決めたルールや手順にこだわりが強く、臨機応変な対応が苦手
ASDの治療や症状の緩和に効果がある薬は見つかっていません。そのため、個別のカウンセリングなどによってASDの特性を理解して症状のコントロールを身に着けながら、可能な場合は周囲に理解と配慮を求めるのが効果的な対処方法となっています。
⇒自閉スペクトラム症(ASD)とは – 武田薬品工業 | 「大人の発達障害ナビ」
LD(学習障害)
LDとは、「読み書き」「計算」などの特定の作業に困難さを抱えてしまう発達障害です。知的発達に問題がなく、視覚・聴覚の障がいや環境的な要因に問題がないにも関わらず学習面に困難さを抱える場合に診断されることがあります。
LDは子供の頃に授業についていけなかった、特定の科目だけが極端に苦手などのエピソードから発覚することが多いですが、
- マニュアルやメールを読んで理解することが難しい
- 電話応対などの時にメモを取ることが難しい
- 数を用いたデータ入力や計算などの業務が苦手
などの職場での困難やミスに直面して、大人になってからLDが発覚するケースもあります。
LDの根本的な治療方法は見つかっていません。脳機能の障がいが原因となって、物事の見え方や感じ方に特有の偏りが生まれているため、本人の特性への理解と対策だけでは改善が難しく、周囲の適切なサポートが必要となります。
引きこもり当事者が発達障害である割合は?因果関係について
引きこもりと発達障害の因果関係は、支援や医療の現場で長らく指摘されてきました。しかし、どの程度の因果関係があるのかについて、正確にはわかっていません。
厚生労働省の調査では、発達障害を抱えた引きこもり当事者の割合は2割~3割とされています。一方で、引きこもり外来を設置している精神科などの集計によると、発達障害と診断された引きこもり当事者は、8割を超えているという報告がされています。
引きこもりの支援や医療の現場では、後者のデータの方が実態に近く、信頼できると考えられているのが現状です。
発達障害の代表的な症状は先述した通りで、ADHDによる不注意・衝動性の特性はミスを誘発しやすく、それが原因となり叱責を受けることで、自己肯定感や自尊心の低下に繋がります。 また、ASDの特性によるコミュニケーションの困難さは、人間関係でトラブルが起こりやすく、強いストレスを感じる原因になります。
このように、発達障害の特性に気付かないまま何も対策がなされない場合、苦手な環境で生活を送り続けることに限界を感じてしまうことがあります。結果的に、社会生活を避けて引きこもりになるケースが多くあるのです。
つまり、発達障害に起因する困難やストレスが積み重なった結果、二次障害として引きこもりになると考えられています。
発達障害かもしれない引きこもり、診断を受ける方法
まず結論として、引きこもり当事者が発達障害を疑った場合、心療内科や精神科を受診して診断を受けることが大切です。発達障害の診断を受けることで、利用が可能になる支援や社会福祉制度は数多くあります。その中には、引きこもりの脱出や生きづらさの緩和に繋がるサービスも含まれているからです。
発達障害の診断を受けることは、あなたに「障がい者である」とレッテルを貼るものではありません。
診断を受けることで、あなた自身が「生まれ持った特性とどのように付き合っていくのか」の改善策を考えることができます。さらには、適切な支援を利用することで、引きこもりから抜け出すための一歩を踏み出せることもあります。
それでは、発達障害の診断を受ける方法について解説していきます。
まずは発達障害の診断が受けられる病院を探すことが大切
発達障害を疑った時の受診先は、精神科や心療内科になります。しかし、発達障害は解明されていないことが多い分野であるため、専門医が勤務していない病院などでは、検査や診断を受けることが難しい場合があります。
まずは近場にある精神科・心療内科の中で発達障害の診療が可能な病院があるか、ホームページなどで診療内容を確認したり電話で問い合わせるとよいでしょう。
ADHDに効果が期待できる薬には、専門医でなければ処方できないものがあるため、診断を受けた場合の治療の流れについても確認しておきたいポイントになります。
また、引きこもり外来が設置されている病院もあります。詳しくは、以下のページをお読みください。
発達障害の診断までの流れ
発達障害の診断の際は、初めに主治医による問診が行われます。問診はあなたを対象に行われるのが基本ですが、より正確な情報を得るために、親を対象にして客観的な視点から普段の生活の様子などの聞き取りが行われることもあります。
問診では、主に以下のような内容が聞かれます。
- あなたが日常生活や職場で直面している悩みや症状について
- 幼少期の様子や現在に至るまでの成長過程の印象的なエピソードについて
- 小中高の学校での様子や家族、友人との人間関係について
- 引きこもりになるまでの経緯と引きこもりになってからの生活
発達障害は生まれ持った特性であるため、幼少期のエピソードは診断のために重要な情報です。事前に上記のエピソードをまとめたメモを用意するほか、母子手帳や学生時代の通知表を用意しておくと役立ちます。正確な診断を得るためにも、具体的な情報を伝えるように心がけましょう。
また、問診の補足情報を集める目的で心理検査(知能検査)が実施される場合もあります。カウンセラーの質問に答える対面での検査や、知識問題・計算・パズルなどを解いて処理速度などを測るペーパーを用いた検査が現在の主流です。
こうして得られた情報を主治医がチェックして、基準を満たすことで発達障害の診断が下りることになります。
発達障害の引きこもり、受けられる支援制度について
引きこもり当事者が発達障害の診断を受けることで、受けられるようになる支援の幅は大きく広がります。引きこもりの脱出に向けた支援以外にも、経済的な支援や社会復帰に向けた支援の対象になることがあるのです。
日本の福祉は、支援制度の利用にあたって、本人の自主的な申し出が必要になる「申請主義」の形態が取られています。つまり、あなた自身が支援制度についての情報収集を行い、利用方法を理解して、自ら「制度を利用したい」という声を上げる必要があるのです。
以下では、引きこもり当事者が発達障害の診断を受けたら利用したいサービスについて紹介していきます。
精神障害者福祉保健手帳の取得
発達障害の診断を受けた場合、「精神障害者福祉保健手帳」といういわゆる「障害者手帳」の取得が可能になります。精神障害者福祉保健手帳には1級~3級までの等級があり、受けられるサービスは等級や障がいの内容によって異なるほか、自治体ごとに提供しているサービスに違いがある場合もあるため注意が必要です。
精神障害者福祉保健手帳の取得により受けられるサービスには以下のようなものがあります。
- 医療費の助成制度
- 税金控除や年金免除の対象になる
- 公共交通機関(主にバス・電車)の運賃割引
- 公共施設(スポーツジムや美術館など)の利用料金減免
- 障害者雇用や就労支援の利用対象になる
申請には初めて病院に行った日から6ヶ月経過していることが条件となっており、主治医の診断書が必要になります。発達障害の診断を受けた場合、精神障害者福祉保健手帳の申請を考えている旨を、事前に相談するようにしましょう。
障害年金(障害厚生年金と障害基礎年金)
障害年金とは、障がいや病気が原因で日常生活に支障がある場合や、仕事ができない時に支給される年金です。初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、厚生年金保険に加入していれば「障害厚生年金」を、国民年金保険に加入していれば「障害基礎年金」をそれぞれ条件を満たすことで申請が可能になります。
障害厚生年金は1級~3級の等級に分かれているのに対し、障害基礎年金は1級と2級しかないため、障がいの程度が軽度な場合には受給できない可能性があります。また、厚生年金保険の方が手厚い制度になっているため、国民年金保険では対象にならない範囲がある点には注意が必要です。
等級によって貰える金額は変わりますが、申請が通れば年間で60万~100万円程の金額を受け取ることができます。一定のまとまった金額を受け取れることは安心感に繋がりますよね。
原則として、障害年金は初診日から1年半が経過しなければ申請ができないため、受給までに時間がかかります。発達障害の診断が確定した場合は、将来的に障害年金を受け取りたい旨を主治医と相談するとよいでしょう。
引きこもりを改善しながら社会と繋がれる・就労移行支援
就労移行支援とは、障がいや病気を抱えた方を対象に就職をサポートするサービスです。公的な認可を受けた民間企業によって運営されています。
就職のために必要な知識・技術の習得やコミュニケーションに慣れるための訓練を受けることが可能です。他にも、社会生活の中で、発達障害の特性とどのように付き合っていけばいいのかを学ぶこともできます。
また、就労移行支援の施設に通所することで、外出するきっかけと自宅以外に居場所ができ、引きこもりを脱出できたという声もあります。
就労移行支援は、引きこもりの改善や、緩やかに社会と繋がりながら就職を目指したいと考えている方にオススメの福祉サービスです。
当ブログでは、発達障害の引きこもり当事者に向けた就労移行支援の記事も掲載しています。
発達障害に配慮を得ながら働ける・就労継続支援A型
就労継続支援A型とは、障がいや病気を抱えた方を対象に、雇用契約を結んで「働く場所とスキルアップの機会」を提供する福祉サービスです。雇用契約を結ぶため最低賃金が保証されており、月の平均給与額は8万円程度となっています。
就労継続支援A型の利用者の中で、発達障害を含む精神障害を抱えている方の割合は令和2年度の時点で47.8%となっています。そのため、多くの事業所は発達障害に対する理解や支援ノウハウを持っており、適切な配慮を得られる環境で働くことができます。
アルバイトや正社員として働くことに不安がある引きこもり当事者が、段階を踏んで社会復帰を目指したいと思った時にオススメの福祉サービスです。
就労継続支援A型については、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
⇒【2024年】就労継続支援A型事業所の給料と手取り額を紹介!
⇒就労継続支援A型はどんな人が働いている?男女比や年齢制限、定年についても解説
⇒就労継続支援A型事業所の労働時間・社会保険を解説。有給はもらえる?
引きこもり地域支援センター
引きこもりが社会問題として認知されるようになった現在、引きこもり当事者の支援を目的として、厚生労働省によって全国に設置されているのが「引きこもり地域支援センター」です。
引きこもり地域支援センターは、社会保険福祉士や精神保健福祉士などの資格保持者が中心となって、相談支援を行っています。そのため、引きこもりと発達障害の因果関係についても、理解が進められています。
公的な引きこもり支援機関であるため、福祉・行政機関とも連携しており、1人ひとりの状況や悩みに応じて利用できる制度を紹介してもらうことも可能です。引きこもり地域支援センターを経由して、上記で紹介している精神障害者福祉保健手帳や障害年金の申請に辿り着くケースもあります。
相談料は無料であるため、引きこもり当事者が「何か受けられる支援はないか?」と考えた時は、まず引きこもり地域支援センターを訪ねるとよいでしょう。
⇒全国の相談窓口はこちら|ひきこもりVOICE STATION
まとめ
- 発達障害は大きく分けて「ADHD」「ASD」「LD」の3つに分類されている
- 発達障害に起因する人間関係のトラブルや、日常生活の困難さから社会生活に適応できず、自己肯定感や自尊心を失った結果、二次障害として引きこもりとなるケースが多い
- 発達障害の診断は、心療内科や精神科で受けることができるが、専門医が勤務している病院でなければ検査が実施されていない場合があるため注意が必要
- 引きこもり当事者が発達障害の診断を受けることで、「精神障害者福祉保健手帳」や「障害年金」など利用できる制度が増えるメリットがある
- とりあえずの相談先としては「引きこもり地域支援センター」が挙げられており、発達障害を疑っていることを踏まえて何をするべきかを相談できる
発達障害を抱えている引きこもり当事者は、障がいの特性によって社会生活の中にどうしても「生きづらさ」を抱えてしまいます。大人の発達障害を見過ごされ続け、外へ出ることへの不安や恐怖心を抱えたままでは、引きこもりがさらに長期化してしまう危険があります。
引きこもりと発達障害には因果関係があるため、あなた自身が発達障害を疑った時には正確な診断を受けて、生まれ持った特性とどのように共存していくかを考えることが大切です。
また、引きこもりの原因は、発達障害以外にも存在します。そのうちの1つが、精神疾患によるものです。詳しくは、こちらの記事をお読みください。