2023年の内閣府の調査によると、引きこもりは全国に146万人いると推計されています。そのため、あなたの身近に引きこもり当事者がいることは、決して珍しいことではありません。
しかし、引きこもり当事者の心理状態や考えていることがわからず、その人の力になりたいと思っても「どうすればよいのかわからない……」と悩んでいる方もいらっしゃいますよね。
この記事にたどり着いたあなたは、
「引きこもりの家族・友人の力になりたいけれど、自分にできることは何があるの?」
「どんなことを考えて引きこもり続けているのだろうか?」
このような疑問をお持ちではないでしょうか?
- 引きこもり当事者はどのような心理状態なのか?
- 引きこもり当事者はどのようなことに悩みや不安を抱えているのか?
- 引きこもり当事者とはどのように接していけばいいのか?
について解説していきます。
私も元引きこもりのニートでした。引きこもり当事者はどのような心理状態なのか、周囲の人は引きこもりの方とどのように接していけばいいのか、この記事を読んで一緒に考えていきましょう。
引きこもりが陥る4つの心理状態とは?
引きこもりの原因は多種多様であり、引きこもりとなった事情や経緯も1人ひとり異なります。しかし、自ら望んで引きこもりとなる人はいません。引きこもり当事者の中には、人間関係の失敗や挫折の経験、学校でのいじめや職場でのパワハラなど、辛い過去の積み重ねによるトラウマを抱えている人が数多くいるのです。
引きこもりとは、自分の心がこれ以上傷つかないようにするための防衛本能が働いている状態です。「この場所に居続けたら自分が壊れてしまう」と感じた時、安全な場所に避難するのは当然のことなのです。
まずは、引きこもり当事者の心理状態はどうなっているのか解説します。
誰からも理解されない引きこもりは周囲とのすれ違いに苦しむ
引きこもりとは、本当に死ぬほど辛いものです。2020年にNHKが行った調査では、1年間に亡くなった引きこもりの方の約3割が「自殺」という最期を選んでいることが分かっています。
引きこもり当事者の辛さとは、実際に経験した人でなければ分からないものです。
しかし、引きこもり当事者の心理とは反対に、
「仕事をせず親に迷惑をかけて、1日中好きなことをしているなんてありえない」
「嫌なことから逃げ続けて自立できていない、甘えているだけの怠け者だろう」
このような声が聞こえてきます。
引きこもりが社会問題として認識されるようになって久しいですが、引きこもりの方に対する世間の風当たりは未だに強いままです。2019年に起きた川崎市登戸通り魔事件や元農水事務次官長男殺害事件など、引きこもりが事件に関わるたびに「引きこもりを犯罪者予備軍として扱う」などの、根拠のない偏見に満ちた報道がなされたことも影響しています。
このような現状を理解している引きこもり当事者たちは、「自分は誰からも理解されない、受け入れられない存在なのだろう」と感じて、さらに心を閉ざして孤立する道を選んでしまうのです。
罪悪感を抱えた引きこもりは自分を責め続けてしまう
引きこもり当事者の多くは、「働かずに引きこもっているだけの自分」に強い罪悪感を抱えています。
引きこもりの解決には心身の休息が必要ですが、その休息が「怠けているだけ」という悪い言葉に変換されてしまうことで、罪悪感はさらに大きくなります。罪悪感は自尊心や自己肯定感を激しく傷つけるのです。
「外に出て働かなくてはいけない」「親に迷惑をかけている」ということは、周囲の人から指摘されずとも引きこもり当事者は理解しています。だからこそ、外に出ることすらままならない自分を無価値な人間だと思い込んで責め続けるのです。
その結果、「死にたい」「消えたい」という感情が芽生えてしまうこともあるでしょう。さらには、生きる意欲を失うことで掃除・食事・入浴などを放棄する、いわゆるセルフネグレクトが始まってしまう可能性もあります。
「もっと自分に罰を与えなくては罪悪感が消えない」と考えることで、自傷行為に発展することがあり、セルフネグレクトの行きつく先には、自殺や孤独死という結末を辿る方もいるのです。
優柔不断な引きこもりは行動できない
引きこもりになると自尊心や自己肯定感が低下しやすくなるため、自分に対する自信を失った結果として優柔不断になりやすい傾向があります。
「引きこもりであることに危機感があるのなら、解決に向けて行動するだけでは?」
このように考えている方からすれば、多くの引きこもり当事者は、自分の意見を持たずに行動しない言い訳を並べているだけに見えることがあるでしょう。
しかし、優柔不断とは、リスクや危険を回避しようとする心理状態なのです。引きこもりのように辛い状況にある場合、判断力が低下して間違った選択をしてしまうことが多くなります。
過去の失敗の中にトラウマを抱えている引きこもり当事者は、「失敗=悪」という考え方を持っています。「失敗は成長に繋がるものではなく、自信をさらに失うきっかけになるもの」と考えてしまうことで、自分の失敗を必要以上に責めたり行動することへの恐怖心が生まれてしまうのです。
悩みを言えない引きこもりは相談できない
本当に悩んでいる人は、自分の悩みごとを正確には伝えられません。何時間でも話せてしまうほどたくさんの悩み抱えている場合、それを一言で相手に伝えることが難しいからです。
だからこそ、心理専門職や相談支援職の方の中では、相手の話に徹底して聞き役に回るクライエント療法が大切にされています。支援する側の誠実な態度と傾聴によって、引きこもり当事者との信頼関係を築いた上で対話することで、一言で伝えられない悩みの正体を少しずつ明確にしていくのです。
長期間にわたり引きこもりの状態で、誰ともコミュニケーションが取れていない場合、家族や友人であっても、自分の素直な悩みを打ち明けてもよいのか分からなくなります。相手のことを信頼できないのです。
自分は真剣に悩んで困っているのに、「なんだ、その程度の悩みだったのか」と悩みの表面的な部分だけを切り取って否定されることを恐れるため、誰にも相談できない心理が生まれてしまいます。
引きこもりの社会復帰に向けた意識とそれを受け入れない社会
内閣府の調査によると、引きこもりとなった人の中で就業経験があるのは15歳~39歳の若年層の中で約7割、40歳~64歳の中高年の中では8割を超えていることがわかっています。つまり、職場での人間関係のトラブルや失敗・挫折などがきっかけとなり、退職して引きこもりとなるケースが多く見受けられるのです。
「できることならもう一度社会復帰をして働きたい」
このように考えている引きこもり当事者は珍しくありません。しかし、厚生労働省が2019年に行った引きこもりの実態調査では、引きこもり当事者の社会参加に対する困惑度を1~10の段階で点数を付けてもらった結果、平均は6.4点で5点以上を付けた人は約8割に上りました。
「対人関係や仕事が怖い」
「もう失敗や挫折を経験したくない」
「社会復帰に向けて何をすればいいのか分からない」
といった、引きこもり当事者の抱える悩みだけが問題となっているわけではありません。
引きこもりからの社会復帰には、困難が付きまとう日本の社会構造や文化にも問題があると指摘されています。日本には異常なほど「失敗すること」に厳しい文化が根付いています。そのため、世間的にレールから外れたとされる引きこもりが社会復帰を目指しても、「良い就職先」が見つかりにくいのです。
「引きこもりになったのは自己責任、就職先がブラック企業しかないのは当然のこと」
このような考え方が、引きこもり当事者が社会復帰に向けて大きな不安を抱える原因になると同時に、社会復帰への機会を妨げることに繋がっています。
長期化する引きこもりと8050問題、「親が死んだら」という不安
80代の親が50代引きこもりの子の面倒を見ている状態を表す「8050(はちまる・ごうまる)問題」は、社会問題として認知されるようになりました。8050問題の渦中にある、40代以上の中高年引きこもりの平均期間は13年程度になるとされており、引きこもりの長期化が深刻な問題となっています。
引きこもりが長期化する背景には、うつ病や統合失調症などの精神疾患、発達障害や対人恐怖症などの障がいが隠れているケースが8割を超えているとされています。そのため、慢性的な無気力や倦怠感を訴える引きこもり当事者は多く、「何も感じられない(感情の喪失)」「何も考えられない(認知機能の低下)」などを引き起こすこともあるのです。
さらに、引きこもりの長期化は家族関係の悪化も引き起こします。親子の間でコミュニケーションが失われることで、
- 親に介護が必要になった場合どうするのか?
- 家庭の経済状況やどれくらいの資産があるのか把握できていない
- 親が死んだ後の葬儀や保険、持ち家についてはどうすればいいのか?
このような今後のことについて全く話し合えていない現状に、不安を抱いている引きこもり当事者は数多くいるのです。
引きこもり当事者は、自立できていない現状のまま親が死んでしまうと手遅れになることは理解しています。しかし、同じ屋根の下で暮らしていても一度疎遠となった関係の修復は難しく、お互いに触れたくない「将来について」話し合うことができないまま時間だけが過ぎていくのです。
8050問題の末路や現実的な自立手段については以下の記事で解説しています。
引きこもりとの接し方、解決に向けてできること
引きこもりはある日突然起こるものではありません。そのため、引きこもりがある日突然解決することもありません。
引きこもりとは解決までに時間がかかる問題であり、長期化するほど解決は難しくなります。引きこもらなくてはいけないほどに傷ついてしまった自尊心や自己肯定感は、簡単に取り戻すことができないからです。
しかし、残念ではありますが社会という場所には、引きこもり当事者の傷を癒して受け入れるという機能は十分に備わっていません。だからこそ、まずは家庭という場所に引きこもり当事者が安心できる環境を作ることが大切です。
以下では、引きこもり当事者とどのように接していけばいいのかについて解説します。あなたの負担にならないことから少しずつ実践して、引きこもりに悩む家族や友人の助けになって頂けたら幸いです。
原因・責任追及は避けて引きこもりに対する価値観を変える
引きこもりになった原因や責任の追及をすることは、引きこもりの解決に有効な手段ではなく、本人をさらに追い詰めてしまう可能性があります。
引きこもり当事者は決して「怠けている」わけではなく、様々な辛さや悩みを抱えていることは先述してきた通りです。
一方で、引きこもりの子を持つ親も、
「引きこもりになったのは、私たちの育て方が悪かったからではないか?」
「親の責任として最後まで面倒を見なくてはいけない」
このように考えて自分のことを責めてしまう場合がありますよね。
しかし、このような親の価値観が子の引きこもりの長期化を招く原因となる場合があります。「自分の子が引きこもりだなんて恥ずかしい、世間に迷惑をかけている」という価値観を持ったままでは、親子でわかり合えないまま引きこもりの責任・原因を互いに押し付け合うことに繋がってしまいます。
まずは、引きこもりとなったのは本人の「自己責任」という考え方を捨てましょう。辛い時に辛いと言うことは、決して恥ずかしいことではありません。
時には誰かを頼ることや、引きこもり問題の支援機関などに相談することも、大切だということを忘れないようにしましょう。
NGな話題を避けてゆるやかなコミュニケーションを試みよう
早く引きこもりを解決しなくてはいけないと考えている家族や友人ほど、「外に出て仕事をするべき」という結論ありきでの会話をしてしまいます。
しかし、これでは引きこもり当事者とのすれ違いを生むばかりになってしまいます。引きこもり当事者の話の否定やあなたの価値観の押し付けでは、引きこもりの解決には至らないのです。
「将来のこと」「仕事のこと」についての話題をいきなり引きこもり当事者に振るのは避けましょう。「同世代の友人の話」なども、周りの人と比較して「自分はダメな人間だ」と考えてしまい、自己肯定感を失うきっかけになりかねません。
「おはよう」
「おやすみ」
「出かけるけれど、〇時には帰るからね」
このような日常的な挨拶や声かけを行うだけでも、相手の存在をしっかり認めているのだと伝えることができます。返事が返ってこなくても気にする必要はありません。
まずは家庭の中に安心できる居場所を作り、引きこもり当事者が部屋から出てきても大丈夫と思える環境を作ることが大切です。
引きこもりに対して過保護・過干渉になりすぎてはいけない
引きこもり当事者に対して過保護・過干渉になりすぎると、本人の自主性を奪う原因になりかねません。親などの過保護・過干渉は、家庭内に引きこもりが長期化する仕組みを作ってしまうことになるのです。
過保護・過干渉の例には以下のようなものがあります。
- 働かなくても困らないほどのお金をあげている
- 食卓まで来ないため食事を部屋まで運んでいる
- 部屋の掃除や洗濯などの家事を親が全てやっている
- 将来のプランや仕事について必要以上のアドバイスをしている
- 「やればできる子」と思い過度な要求や期待をしている
引きこもり当事者に対して不自由のない生活を与えすぎると、本人は「このまま引きこもっていても生活できる」と考えるようになってしまいます。親に万が一のことがあった時、安易に「生活保護を頼れば問題ない」と考える引きこもり当事者は少なくありません。
引きこもり当事者に対する過保護・過干渉は、いつまでも親に甘える原因となります。引きこもりの解決に向けては、過保護・過干渉にならないように適切な距離を保ちながら本人を見守ることも大切です。
生活保護については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
⇒引きこもりでも生活保護は受けられる?受給に必要な条件を解説
引きこもり支援を頼る時は本人の納得と同意を大切に
引きこもりは長期化するほど解決が難しくなります。そのような時は見守るばかりでなく、引きこもり支援を得意としている相談窓口や支援機関へ相談するのが効果的です。引きこもり支援には、厚生労働省が運営している「ひきこもり地域支援センター」の他にも、NPO法人などが運営している民間の支援機関があります。
ひきこもり地域支援センターは、引きこもり当事者の相談支援と社会復帰、福祉サービスと繋げることを得意としています。
一方、民間の引きこもり支援機関には、
- 外の世界に居場所を作ることを目的とする「通所型」
- 一定の期間宿泊施設に入所して共同生活を送る「宿泊型」
- スタッフが自宅を訪ねて相談に乗る「訪問型」
など様々な形態で支援が行われています。
しかし、引きこもり当事者の考えを無視して、親の一存だけで引きこもり支援の利用契約を結んではいけません。
引きこもり支援を頼ることで、生活環境が大きく変化する場合があります。本人が望まない形の支援に繋げてしまうと、大きなストレスを抱えるきっかけになってしまうこともあるでしょう。
「引きこもり支援団体と親が勝手に契約する」ことは、家族関係や引きこもりが悪化する可能性があるため、本人と相談して納得と同意の上で信頼できる引きこもり支援団体を頼りましょう。
引きこもり支援団体を利用する際の注意点や選び方については、以下の記事で解説しています。
まとめ
- 引きこもりは単なる「甘え」や「怠け」から起こるものではなく、いじめやパワハラ、失敗や挫折などの辛い経験が積み重なって発生する問題である
- 引きこもり当事者は「働かずに引きこもっている自分」に罪悪感を抱えていることが多く、自分を責め続けてしまう心理状態に陥っている
- 引きこもり当事者は社会復帰について何も考えていないわけではなく、親の介護や親が死んだ後の自立など将来に向けた不安を抱えている
- 引きこもりになった原因や責任の追及は避けて、毎日の挨拶などのゆるやかなコミュニケーションから始めることが家族の関係や引きこもりの改善に効果的
- 過保護や過干渉が引きこもりを長期化させてしまう原因となることがあるため、引きこもりの世話をしすぎず適切な距離を保ちながら接することが大切
今回の記事では、引きこもり当事者の心理状態や、周囲の人はどのように接すればいいのかについて紹介しました。
引きこもりとは、見守るだけではなかなか解決に結びつきにくいものです。長期化して中高年になるほど、解決へのハードルはさらに高くなります。
だからこそ、まずは引きこもり当事者との価値観・意見のすれ違いや関係改善を大切にして、少しずつ成功体験を積み重ねていくことが、引きこもり解決の確実な一歩になります。
他にも、引きこもりについて詳しく解説している記事があります。ぜひ参考にしてみてください。
⇒引きこもりから立ち直るきっかけと脱出法【元引きこもり目線】
⇒引きこもり・ニートでも怖くない! 初めてのハローワーク利用ガイド
⇒大人の引きこもりが受けられる就労支援4選!メリットとデメリットも解説